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不死身の男

「なっ!?」

「無傷……ですって!?」


 アイリスの魔法による渾身の一撃を加えたにも拘わらず、ベリアルセブンに碌にダメージを与えられなかったことに二人の少女は驚愕の表情を浮かべる。


「ヘイヘイヘーイ、どうした? 俺っちのマジパネェ実力に、怖気付いちまったかい?」


 長い爪を使って自慢のモヒカンを整えながら、ベリアルセブンはズラリと並ぶ鋭い歯を見せながら快活に笑う。


「だ、誰が怖気付くものですか!」

「そうですわ。リリィ、もう一度ですわ! 今度こそ、必ず奴を倒しますわよ!」

「はいっ!」


 アイリスが愛用の樫の木の杖を構えるのを見たリリィは、彼女が魔法を唱える時間を稼ぐためにベリアルセブンに向けて駆ける。


「参ります!」


 仕切り直すために、改めて自分を鼓舞する一言を発してスイッチを切り替えたリリィは、今度はベリアルセブンを撹乱するように左右にステップを踏みながら近付く。


「おおっ、マジパネェ! 目で追うのがやっとの速さじゃん」

「そうですか。なら……」


 右に大きく跳んで着地したリリィはグッ、と足に力を籠めて全力で地面を蹴って前へ跳ぶ。



 瞬間、爆発的に加速したリリィの体がベリアルセブンの視界から消える。


「……あんれっ?」


 突如としてリリィが消えたことに、ベリアルセブンが不思議そうに首を傾げる。


「やべぇ……勇者ちゃん、消えちまったじゃん」


 呆けた顔をしてそんな間抜けな声を発すると同時に、ベリアルセブンの背後から物音が聞こえる。


 その音に反応して、ベリアルセブンが何となく振り向くと、剣を振りかぶった姿勢のリリィがそこにいた。


「……えっ?」

「目で追えない速さで駆けるまでです!」


 驚きの声を上げるベリアルセブンに向かって、リリィが構えた剣を全力で振り抜く。


 光の軌跡を描いて振り抜かれたリリィの剣は、呆然と佇むベリアルセブンの首を捉え、容赦なく刎ね飛ばす。


 斬り口から噴水のように舞い上がる血を浴びないように、リリィは大きく後ろに跳びながら、呪文の詠唱を終えたであろう相棒に向かって叫ぶ。


「アイリス!」

「わかってますわ……クリムゾンフレア!!」


 ライルの補助魔法(バフ)を受けて、さらに威力を増した自身の最大魔法をアイリスは容赦なく放つ。



 既にリリィが首を刎ねたのに、追い打ちを掛ける必要があるのかとか、これで城の中がどうなるか、などという余計なことは考えない。


 この一撃によって奴を倒さなければ、おそらくもうあの魔物を倒す術は思いつかないから……、


 だからオーバーキルとなろうとも、ライルの言う通り、肉片一つ残さないように殺し尽す。

 最初の一撃を経て、そう結論付けたアイリスは、激流の如く轟音を立てて渦巻く巨大火球をベリアルセブンの胴体目掛けて放つ。


「いっけえええええええええええええええええええええええええぇぇぇ!」


 裂帛のかけ声と共に放たれたクリムゾンフレアは、周囲の空気を取り込み、さらに成長しながらゆっくりとベリアルセブンの体に吸い込まれる。


「キャアッ!」

「うくっ……」


 次の瞬間、巨大火球が大爆発を起こし、生まれた衝撃波によって二人の少女が大きく吹き飛ばされる。


「――っ、よっと!」


 吹き飛ばされながらも、空中で態勢を整えたリリィは、まるで猫のようにしなやかに着地して見せる。


 だが、


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!」


 魔法使いであり、体術の会得などもってのほかのアイリスは、まともに姿勢制御などできるはずもなく、錐揉み状態で吹き飛んでいた。


「ア、アイリス!?」


 このままでは床か壁に激しく体を打ち付けて、大怪我を負ってしまうかもしれない。

 そう思ったリリィが慌てて駆け出すと同時に、アイリスに颯爽と向かう影が見えた。


「……えっ?」


 まるでリリィのように、とんでもない速さで駆け、空中で見事にアイリスを抱き止めて着地した影を見て、リリィは驚きに目を見開く。


「お、お兄様!?」


 アイリスを助けたのは、傍観者に徹すると言っていたはずのライルだったからだ。



 膝を大きく曲げ、着地の衝撃を吸収したライルは、ゆっくりと立ち上がりながらお姫様抱っこをしているアイリスに向けて話しかける。


「大丈夫か?」

「…………えっ? ラ、ライル……どうして?」

「ただの気まぐれだ。この城でアイリスに死なれるのは、我等としては色々とめんどうだからな」


 ぶっきらぼうに呟いたライルは「立てるな?」と言いながらアイリスを立たせてやる。


「あ、ありがとう……ございます」


 ライルに手を握ってもらいながら立ち上がったアイリスは、頬を朱に染めて炎を真っ直ぐ見つめている嫌いなはず彼の顔を見る。


「……むぅ」


 照れた様子のアイリスを見て、リリィは頬を膨らませて不満を露わにすると、ズカズカと歩いてライルに話しかける。


「お兄様、アイリスだけ助けるなんてズルいですよ」

「何を言っている。アイリスを助けた理由は今しがた話しただろう」

「そ、そうですが……じゃあ、せめてあの魔物を倒したのですから、お褒めの言葉の一つや二つ、くださってもいいのではないのですか?」

「……誰が奴を倒したのだ? 奴はまだ、生きているぞ」

「「えっ?」」


 ライルの呟きに、リリィとアイリスの二人は揃って声を上げて、燃え盛っている炎を見やる。



 すると炎の中に取り込まれたベリアルセブンと思われる人影がゆっくりと立ち上がり、ふらふらと歩いて何かを拾い上げるのが見えた。


 それは、リリィが刎ね飛ばしたはずの首だった。


「そ、そんな……」

「どうして……」


 驚愕するリリィたちを他所に、まるで炎の熱を感じさせない確かな動きで首を元の位置に収めたベリアルセブンは、


「超☆エキサイテイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィング!」


 謎の奇声を発しながら両手を大きく広げて、アイリスの渾身の一撃であるクリムゾンフレアを吹き飛ばしてみせた。


「ははっ……今のはちょっち……痛かったっしょ」


 ベリアルセブンは片方の鼻の穴を親指で塞ぎ「フン!」と息を強く吐いて、鼻に溜まった血を取り出すと、鋭く尖った歯を見せるように獰猛に笑う。


「まあ、ここまでサービスしてやったんだ。ここからは俺っちのターンでしょ?」


 意気揚々と宣言したベリアルセブンは、大きく体を折り曲げて背中に収納していた翼を展開すると、飛びかかる姿勢を取る。


「とりま一つ目……精々、楽しませくれよな!」



 そうして死刑宣告と共に、紫色の悪魔が攻勢に出る。

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