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悪魔(夢)再び

 謁見の間の扉は、全長三メートルほどもある真っ白な巨大な扉だった。


 普段は扉を開ける専門の兵士がいるそうだが、流石にこの状況では誰かを頼るわけにもいかないので、ライルたちは三人並んで巨大な扉の片方に手を当てて力を籠める。

 鍵はかかっていないのか、ほどなくして巨大な扉が音を立ててゆっくりと動く。

 そうして人一人が通れるほどの隙間が開いたところで、三人は扉の中へと体を滑り込ませる。


「中に入ったら扉を閉めるんだ。それで他の魔物も入って来ないはずだ」

「は、はい!」


 ライルの声を聞いたリリィはすぐさま扉に張り付くと、力を籠めて扉を閉めた。


「ふぅ……」


 開ける時よりも少ない力で扉を閉められたことに安堵しながら、リリィが一息ついて振り返る。


 そこには、数メートル先も見渡せない真っ暗闇の空間が広がっていた。


 部屋の広さはわからない。だが、流れている空気は冷たく、上を見ても天井が全く見えないことから、かなりの広さがあることだけはわかった。


「…………真っ暗ですね」


 きっと誰もが既に思っていることだが、緊張を少しでも解そうとリリィが二人に話しかける。


「ここに、いるのですよね? 魔王が……」

「ええ、そのはずですわ」


 いつ何処から攻撃されるかわからないので、周囲を警戒しながらアイリスが口を開く。


「気をつけてくださいまし。相手は卑怯、卑劣をものともしない最低の連中ですわ」

「おおっと、そいつは心外だな!」


 すると、アイリスの声に反応するように、前方から何者かの声が響く。


「卑怯? 卑劣? それの何処が悪いのだ。勝つために手段を選らないのは、当たり前ではないのかね!?」

「んなっ!?」


 堂々と手段を選ぶつもりはないと公言する声を聞いて、アイリスの顔が怒りに染まる。


「な、何を仰いますの! それが三下のやることならともかく、魔王が姑息な手を使うなど……恥と知りなさい!」

「ハハハ、見解の相違だね」


 だが、そんなアイリスの怒りなど全く気にした様子もなく、声の主は楽しそうに、まるで歌うように語る。


「その声……先日、尻尾を撒いて泣きながら逃げ出した姫様だね? ハハッ、あの時の泣き虫の帰還とは……少しは勝てる算段でもついたのかな?」

「――っ、お、お黙りなさい!」


 逃げ出した時のことを揶揄されたことが恥ずかしかったのか、羞恥に顔を赤くしたアイリスは、暗闇に向かって全力で叫ぶ、


「ベラベラと喋る前に、とっとと姿くらい見せたらどうなのかしら? それとも、わたくしたちの前に姿を晒せないほど、魔王とやらは臆病者なのかしら?」

「…………フッ、泣き虫姫様が言うじゃないか」


 アイリスの挑発を受けて、声の主のトーンが下がる。


「いいだろう。そこまで言うのなら、受けて立とうじゃないか」


 声の主が声高々に宣言し、室内に指を弾いた時の様なパチン、という小気味いい音が響く。


 次の瞬間、部屋の四方を囲むように蒼い炎が次々と生まれ、夜の闇を切り裂くように謁見の間の全容が明らかになる。


「……えっ?」


 露わになった謁見の間を見て、リリィが困惑したように声を上げる。


「な、なんてこと……」


 続いてアイリスが愕然とした様子で顔を青くさせる。


「…………ギリッ」


 最後に、ライルが感情をなくした表情で歯ぎしりをした。



 露わになった謁見の間は、リリィが思い描いていたものと随分と違っていた。


 蒼く照らされた室内には、それ以上に目が眩むほどの赤、青、黄、緑と見ているだけで目が疲れるよくわからない光る物で溢れかえり、部屋の中央には七色に光って回る球体の謎のオブジェがあった。

 壁は真っ赤に塗られ、垂れ下がったカーテンは怪しく紫色に光り、窓もステンドグラスなのか、一枚一枚が全て違う色に塗られてよくわからない模様を描いていた。



 まるで厳かとは真逆の、とても現実とは思えない空間に、リリィはここが夢の中ではないかと思っていた。

 だが、どうにか気を取り直しながら、リリィはアイリスへと話しかける。


「アイリス……謁見の間ってこんな感じの部屋なのですか?」

「そ、そんなわけありませんわ!」


 リリィの疑問に、アイリスが遺憾の意を表しながら捲し立てる。


「この部屋は由緒正しい厳かな場で……代々の王の威厳が……なんてこと」

「アイリス!」


 いきなりふらりと倒れそうになるアイリスを見て、リリィが慌てて手を差し伸べて彼女の体を支える。


「だ、大丈夫ですか?」

「す、すみません。でも、信じて下さいまし。わたくしのお父様は、決してこんな悪趣味な謁見の間を造るはずがないと」

「そ、それはもう……」


 流石にこれはないと思ったリリィは、頷きながら謁見の間の奥を見やる。



 そこには玉座と思われるキラキラ光る石が散りばめられた椅子があり、普通は座るはずの座面の上に、人影が立っていた。


 隊長は大柄でおよそ二メートル、頭に長くて鋭い二本の角があり、さらに三本目の角かと紛うモヒカンヘアーをしており、服装は胸元が大きく開き、何やらテカテカと光る服を着ているが、露出している肌の色は紫色、人相は魔物にしては珍しく、整った美しい顔立ちをしていた。


「あれは……」


 リリィが人影に顔を向けると同時に、玉座の周囲から炸裂音と共に色とりどりの花火が舞い上がる。


「――っ!?」

「ハッハッハーッ! ウェルカァァム!」


 突然の事態にビクリと身を震わせるリリィたちを他所に、紫色の肌をした魔物が両手を大きく広げながら自己紹介をはじめる。


「俺っちが、とりまこの城を魔王様から任されたベリアル七十二柱の一人、七男のベリアルセブン様っしょ!」


 意気揚々と名乗りを上げたベリアルセブンは、二本指をこめかみのすぐ横に掲げて軽く敬礼すると、


「よろたの~」


 暗闇の中でも恐ろしいほど白く光る歯を見せながらニヤリと笑った。

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