巡回する自動人形(ゴーレム)
中庭を巡回している自動人形は全部で三体、それぞれが一定の距離を保って決められた順路を回っているとのことだった。
「問題は、あの自動人形たちがどうやって索敵をするか、だな」
一先ず安心だと思われる出口近くの茂みに身を隠したライルは、二人の少女に自動人形について話す。
「自動人形は、基本的に所有者から受けた命令を受けて動くので、その命令に反する行動をしない限り、向こうから襲いかかってくることはない」
「えっ、それでは……」
ライルの言葉に、妙案が思いついた様子のリリィが手を上げて発言する。
「命令に違反冴えしなければ、堂々と歩いて人形さんたちの前を通れるということですか?」
「そういうことだ。だが、今の命令は不審者を見かけたら、問答無用で報せるようにと命令されているだろうがな」
「あう……」
妙案だと思ったのに、すぐさま論破されてリリィは肩をがっくりと落とす。
「フッ……まあ、自分の意見を言うことは悪くない」
落ち込むリリィを励ますように、ライルは妹の頭をポンポン、と軽く叩きながらアイリスへと尋ねる。
「アイリス、あの自動人形たちの索敵範囲と索敵方法はわかるか?」
「え、ええと……索敵範囲は十メートルほどだと思いますが、索敵方法とは何ですの?」
「索敵方法とは、自動人形が何を持って我々のことを認識することだ」
「わたくしたちを……認識?」
「そうだ。主に自動人形の索敵方法は三つある」
ライルは指を立てながら、自動人形の索敵方法について説明する。
「一つは目視による索敵、これは我等と同じで、目で見て相手を認識するということだ。二つ目は音による索敵、目は見えないが、代わりに我等より鋭敏な聴覚によって周囲の音を拾うことで相手を索敵するものだ」
そこで一息ついたライルは、続いて薬指を立てる。
「そして三つ目、これはそれ以外の知覚による索敵だ」
「それ以外……とはですの?」
「主にあるのは熱だな」
「熱?」
「ああ、生きている者はすべからく熱を発しているものだ。その熱を探知して索敵するのだ。この場合、壁の向こう側も索敵範囲に入るから、隠れるのがかなり難しくなる」
「――っ、それでは……」
「安心しろ。こうして隠れている我等が見つかっていないということは、少なくとも熱探知の範囲内にはいないということだ」
「そ、そうですわね」
思わず腰を浮かしかけるアイリスであったが、ホッと息を吐きながら再び腰を落とす。
「それで、アイリス……ここからが本題だが、連中の索敵方法だが……」
「申し訳ありません……わたくしは存じ上げませんわ」
「…………だろうな」
ライルが索敵方法を聞いた時にアイリスが答えられなかった時点で、この答えはおおよそ予想できた。
「……ちなみにだが、自動人形の顔はわかるか?」
「顔……ですの?」
「ああ、自動人形の顔を見れば、どのように索敵しているかを大まかに認識できたりする。目は付いているか? 耳……もしくはそれに準ずる器官が付いてたりするか?」
「そ、それは……」
どうにかライルの質問に応えようと、アイリスは視線を彷徨わせて必死に記憶の糸を辿る。
だが、有益な回答は見つからなかったのか、表情を曇らせたアイリスはゆっくりとかぶりを振る。
「申し訳ございません。わたくしの知る限りでは、あの自動人形には目も耳も付いていなかったと思いますわ」
「そうか……となれば相手に看破されることを見越して、対策をしているのかもしれんな」
アイリスから有効的な答えを引き出せなかったが、それも想定内であるとライルはこの場を切り抜ける方法を考える。
自動人形たちがどうやって索敵するのかがわからないのであれば、視覚、聴覚、熱反応……全てに対応する策を考えればいい。
「――っ、お兄様!?」
何か有効的な策はないかと考えていると、リリィの息を飲む声が聞こえ、ライルの袖を強く引きながら話す。
「私たちが出てきた通路から、足音が聞こえました」
「何、本当か?」
「はい、地下を巡回する自動人形の足音だと思いますが……このままでは私たちのすぐ近くを通ることになります」
「それは……マズいな」
自動人形による索敵は、人の耳目より比較にならないほど鋭敏なので、ここで息を殺して監視の目から逃れられる可能性は五分である。
ましてや、熱反応による感知であったら、確実に見つかるだろう。
決して失敗できないクエストを遂行する中で、そんな分の悪い確率に賭けるなど愚の骨頂である。
これはまだ前哨戦ですらないのだから……、
ライルは忙しなく目を動かしながら、何かこの場を切り抜けられるものはないかと探す。
自分の手荷物をザッと思い浮かべた後、リリィとアイリスの全身を舐めるようによく観察する。
「お、お兄様……恥ずかしいです」
「な、なんですの一体……」
二人から抗議の声が上がるが、それを無視してライルはさらに二人を観察する。
そうして余すことなく二人の少女を眺め続けた結果、
「――っ、そうか!?」
この場を切り抜ける妙案を思いついたライルは、こちらをジッと見ているリリィへと手を伸ばす。
「お、お兄様?」
「動くな」
「は、はい……」
何をされるか聞いていないリリィは、顔を主に染めながらギュッ、と目を閉じる。
まるでキスをねだるように顔を僅かに上げるリリィを無視して、ライルは彼女の腰に吊られたある物を手に取る。
それは、冒険者の必須アイテムの一つ、ランタンだった。
明かりが外に漏れないようにと、上から被せてある布を取り払ったライルは、そのまま大きく振りかぶると、
「…………いけ!」
短く息を吐いてランタンを自動人形目掛けて思いっきりぶん投げた。




