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城を護りし者たち

 ライルから作戦を聞いた後、リリィたちは一旦秘密の通路に戻り、そこで夜が更けるのを待つことにした。



 戦うのがリリィとアイリスの二人だけである以上、真正面から攻めるような無謀なことはせず、皆が寝静まった頃を見計らって、奇襲を仕掛けることにしたのだ。

 勇者らしくない。例え卑怯と罵られようとも、この戦いには絶対に負けるわけにはいかない。さらには城内にどれだけ魔物がいるのかわからないし、最奥には魔王と呼ばれる者が待っているのだ。


 魔王を倒さねば勝利とならない以上、奴と戦うまでに余計な体力は使うべきではない。そんなライルの提案に、二人の少女から異論がでるはずもなかった。




 ――その後、秘密の通路で仮眠を取って体調を万全に整えたリリィたちは、アイリスが持っていた懐中時計で日付が変わったのを確認して行動を開始する。


 耳を澄まして周囲に誰もいないことを確認したリリィは、音を立てないようにそっと木製の扉を開ける。


「…………よし、誰もいませんね」


 首だけ外に出して目視でも安全を確認したリリィは、牢獄の中のライルたちに話しかける。


「大丈夫です。行きましょう……アイリス」

「ええ、道案内は任せてくださいまし」


 笑顔を浮かべて頷いたアイリスは、外に出ると地面へと視線を落として何かを確認した後、右の通路を指差しながら話す。


「この牢獄は長いこと使っていませんので、収容されている人はいないはずですわ。あちらから階段を上って外に出ますわよ」

「わかりました……」


 アイリスからの指示を聞いたリリィは、牢獄内で腕を組んで様子を見守っているライルに話しかける。


「お兄様、行けますか?」

「問題ない。いつも通り、お前の望む通りに動け」

「はい、わかりました」


 ライルからのお墨付きをもらったリリィは、大きく深呼吸を一つすると、


「では、参ります」


 気合を入れるための一言を発して、周囲の安全を確認しながら駆け足で移動した。




 牢獄内にある左右の階段は、どちらを進んでも同じ場所に出るということだったが、アイリスが右側の通路を選んだのにはある理由があった。


「我が城には、夜は侵入者対策として警護用の自動人形(ゴーレム)を巡回させてますの」

「自動人形って……あの自動人形ですか?」

「リリィの言う、あの、が何を指しているのかは存じ上げませんが……まあ、そうですわ」


 興奮した様子のリリィを見て、アイリスは苦笑しながら自動人形について話す。


「魔王に城が乗っ取られた後も、自動人形だけは変わらず仕事をしていましたわ……といっても、監視する対象が不審者ではなく、わたくしたちに代わっただけですが……」

「なるほど……」


 アイリスたち王族が城から脱出したくてもできなかったのは、警護用の自動人形が城内を巡回しているからで、連中に見つかるとアラームが盛大に鳴って、あっという間に魔物たちに取り囲まれてしまうのだという。


「ですから、例え魔物たちが寝ていても、城を徘徊している自動人形に見つかるわけにはいかないのですわ」

「なるほど……だからさっき地面を見て、自動人形の経路を確認したのですね?」

「フフッ……リリィったら、よく見ていましたわね。ええ、こちらの道を選んだのは、自動人形と正面から鉢合わせすることは避けるためですわ」

「といっても油断は禁物、ですね」

「そういうことですわ」


 アイリスから自動人形の順路について大まかな説明を受けたリリィは、前方を注意しながら階段を上って牢獄を後にする。




 ライルたちを置いて一足先にリリィが階段を上り切ると、城の中庭へと出た。


「わぁ……」


 目の前に広がる光景を見て、リリィは思わず感嘆の声を上げる。


 そこには昼間にアイリスが話していた通り、様々な種類の花が咲き乱れる見事な庭園が広がっており、月明かりを受けて幻想的な世界を創り出していた。


「でも、どうして……」


 夜はもうかなり更けているのに、どうして中庭の景色がよく見えるのだろう。

 不思議に思ったリリィが夜空を見上げたところで、


「……あっ」


 その理由に気付き、思わず小さく息を漏らす。


 リリィの視線の先には、空を覆い尽くす満天の星々と、夜の闇にも負けないほど青白く光るまん丸の月が見えた。


「そっか……今日は満月なのですね」

「これは好都合だな」


 すると、後ろからやって来たライルが、リリィと並んで満月を眺めながら嬉しそうに話す。


「これだけ明るければ、外を移動する分には苦労はあるまい」

「そうですね……あっ、お兄様……あれ」


 そこで何かに気付いたリリィが、暗闇の先を指差す。


「あそこ、植木の向こうに何やら人影が見えます」

「むっ……」


 リリィの指差す先を見ると、暗闇の中に盛大に足音を響かせながら歩く何かがいた。


 大きさは一メートル程と小柄だが、肩幅が身長と同じほど横に広くて手は地面に付くほど長い、人としては些か不格好なシルエットをしている。歩く度に聞こえる足音は硬質で、いかにも重そうに聞こえるそれは明らかに人のものではなかった。


 規則正しいリズムで歩き続ける人影を見て、リリィが声を上げる。


「もしかしてあれが自動人形……ですか?」

「そのようだな」


 さらによく見ればその影の向こうにも、さらにその先にも自動人形と思しき影が見えた。

 今見えるだけでも、三体の自動人形を確認したライルは、苛立ちを露わにするように頭をガシガシと掻く。


「…………これは、かなり厄介かもしれぬな」


 そう呟くと、腕を組んでどうやってこの状況を切り抜けるべきかを考えだした。

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