とっておきの一撃
「アイリス……綺麗」
グランデラパスの気を引くように忙しなく動きながらも、リリィは光の玉に囲まれて詠唱するアイリスをちらと見て、その幻想的な美しさに思わず嘆息する。
アイリスを囲む様にふよふよと漂う光の玉は徐々にその数を増し、これから施行される魔法がいかに高威力であることが伺えた。
あの魔法が放たれれば、アイリスは念願の兄の仇を討てるのだ。
同じように兄を大切に想っているリリィとしては、何としてもアイリスの願いを叶えたいと思っていた。
「――クケッ!?」
すると、グランデラパスもアイリスの周囲の異常に気付いたのか、顔をジッと彼女の方に向けて大きな翼をバサッ、と広げて威嚇すような鳴き声を上げる。
このまま放っておけば、怪鳥は今すぐにでも飛び立ち、アイリスが魔法を発動させるより早く彼女に肉薄するだろう。
「させません!」
今すぐにでも飛び出しそうなグランデラパスを見て、リリィは大きく跳んで怪鳥との距離を一気に詰める。
「やあああああぁぁ!」
リリィが叫びながら上空から襲いかかると、彼女の接近に気付いたグランデラパスが慌ててその場から飛び退く。
敵対関係として改めて認識したのか、グランデラパスが攻撃態勢に取るのを見て、リリィは深く腰を落とし、折れた剣を納刀して腰だめに構える。
「お兄様……今、ここで私のとっておきの一つを解放します!」
膝を深く折り曲げ、地面に顔が付きそうなほど低く構えたリリィは、ライルの教えを思い出す。
ライルによると、この技はとある島国に伝わる一撃必殺を主とした剣技で、その威力は鉄をも切り裂くほどに強力だという。
ただ、一切の防御を捨てて全てのリソースを攻撃に振るため、攻撃を外した時のリスクが膨大なのと、威力が高過ぎてたったの一撃で武器が壊れてしまうので、他に敵が残っている時には使えないのが難点だった。
リリィが生まれてから一度も村から外に出ていないライルが、どうしてそんな異国の剣技について知っているのかはわからないが、彼女にとってそんな些細なことはどうでもよかった。
最高の勇者としてライルに認められること。それがリリィにとっての全てだった。
腰をさらに落とし、弓を引き絞るかのように限界まで足に力を籠めたリリィは、
「参ります!」
自分を鼓舞する一声を発すると、一陣の風となってグランデラパスに向かって突撃する。
「クケエエエエエェェェ!」
突っ込んでくるリリィを見て、グランデラパスが両方の羽を大きく羽ばたかせて大量の羽根の礫を彼女に向けて放つ。
眼前に迫る羽根の礫に対し、リリィは回避をせずにそのまま突っ込んでいく。
「――っ、つぅ……」
羽根が腕や足を掠め、リリィの玉のような肌に傷をつけて行くが、それでも彼女は怯むことなく前へと突き進む。
そうして羽根の礫の嵐を抜けてグランデラパスへと肉薄したリリィは、右手で剣の柄を掴むと、
「疾風!!」
技名を叫びながら右手を振り抜く。
瞬間、グランデラパスの体に緑色の線が走ったように見えた。
風となって駆け抜け、着地したリリィはゆっくりと立ち上がって血を払うように剣を振る。
「…………終わりです」
リリィがそう告げると同時に、グランデラパスの右の翼が大きく裂け、傷口から大量の血が天高く拭き上がる。
「クケエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェ!!」
鳥の最大の機動力である翼を奪われたグランデラパスは、耳を劈くような悲鳴を上げながら苦し気にのたうち回る。
それを見たリリィは、役目を終えてボロボロに朽ちた剣を投げ捨てながらアイリスに向かって叫ぶ。
「アイリス、今です!」
「…………わかりましたわ!」
リリィからの声を聞いたアイリスは、樫の木の杖をくるりと回してから天高く掲げると、無数に集まった光の玉が、アイリスの掲げた樫の木の杖に従うように彼女の頭上へと吸い込まれていく。
次の瞬間、アイリスの頭上に集まった光が爆発し、直径十メートルにも及ぶ超巨大な火球へと生まれ変わる。
「いきますわよ……これがわたくしの最大魔法、クリムゾンフレア!」
魔法名を叫ぶと同時に、アイリスが樫の木の杖をグランデラパスへと向けて振るう。
すると周囲の空気を巻き込んでさらに大きく成長していた超巨大な火球が、グランデラパスへ向けて一直線に飛ぶ。
自分に向かって来る超巨大な火球の存在に、グランデラパスは逃げようと翼に力を籠めるが、リリィに切り裂かれた傷は深く、飛び立つことができない。
さらにそこへ、
「――クエッ!?」
何処からともなく飛んできたナイフが、残っていた右目に突き刺さって、怪鳥の視界を完全に奪う。
「もう、終わりにしましょう。あなたはもう死んでいるのですから」
視界を奪われたグランデラパスに、リリィの何処か寂しそうな声が聞こえる。
翼と視力を奪われ、完全に機動力を封じられたグランデラパスは、
「クケッ! クケッ! クケエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェ!!」
それでも生にしがみつくように、全力で叫びながら無茶苦茶に体を動かす。
だが、次の瞬間、アイリスが放った超巨大な火球がグランデラパスの体を飲み込む。
「――ッ、クケエエエェェ!?」
体を焼かれる痛みに、グランデラパスは必死になって逃れようとするが、周囲の空気を取り込むように渦を巻く火球に一度囚われたら、逃れる術はなかった。
頼みの綱の不死による回復の恩恵もなく、炎の中で暫くもがいていたグランデラパスの動きが緩慢になっていく。
「クケエエェェ…………」
程なくして叫び声も弱々しくなり、やがて動きを止めると、空の王者と呼ばれた怪鳥は炎に焼かれて息絶えたのであった。




