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様式美を理解しない者に誅を

「あが……ががっ、ぎゃああああああああああああああああああああぁぁ……」


 ライルに腕を折られた男は、断末魔のような叫び声を上げながら手にしていた杖を取り落とす。


「がっ……がが……お、俺の腕が……腕があああああああぁぁ!!」

「……煩い!」


 泣き叫ぶ男の側頭部を、ライルはバックナックルで容赦なく殴り飛ばす。


 殴られた男は激しく回転しながら地面と水平に飛び、五メートルも吹き飛んだところでようやく地面に落ちて、その後も勢いが死ぬまでゴロゴロ転がり続けた。

 そうして完全に停止した時、男の手足と首はあらぬ方向に折れ曲がり、一目見ただけで絶命しているのがわかった。



「やれやれ……拳に汚い血が付いてしまったな」


 一瞬にして男たちの一人を殺したライルは、吹き飛ばした男には目もくれず、拳の血を地面に擦り付けながら残っている四人を見据える。


「今の男は、あの怪鳥に魔力を送っている不死使い(ネクロマンサー)ではなかったな。では、残る四人のうちの誰か……」


 ライルは残る男たちを指差して、誰がグランデラパスを不死(アンデッド)にしたかを探る。

 だが、


「まあいい……どうせ一人残らず殺し尽すのだ。誰が不死使いなど些末なことだ」


 様式美を理解しない連中を生かしておく理由はないと、ライルは魔法で強化した腕をぐるりと回して調子を確かめると、面食らったように佇む男たちに向かって歩き出した。




「何…………だと?」

「い、一体何が起きたんだ!?」

「俺にはただ殴っただけに見えたが……」

「馬鹿な!? その男はただの魔法使いのはずだ」


 仲間の一人がやられた理由がわからず、四人の男たちの間に動揺が広がる。


 一体何をどうやれば、魔法も使わずただの一撃で、あれだけの惨状を引き起こせるのか皆目見当が付かなかったのだ。


「ど、どうする……逃げるか?」

「馬鹿を言え、逃げたらグランデラパスにかけている魔法も解けて、次の死で終わりになってしまうぞ」

「それに、逃げ出したらあのお方が、我々を許して下さると思うか?」


 男たちは向かって来るライルから距離を取りながら、どうすべきかを素早く話し合う。


「……まあ、待て。まだ奴の実力が本物と決まったわけじゃない」


 すると、最初にライルに鑑定(アナライズ)の魔法を使った男が、前へと進み出て話す。


「奴が何をしたかはわからないが、攻撃魔法を使えないのは確かなのだ。ならば、攻められる前に、攻め尽くせばいい」

「た、確かに……」

「さっきは侮ったのが全てだ。次は……全力で行くぞ!」


 その言葉に男たちは顔を見合わせて頷くと、四人でライルを取り囲むように立つ。



「タイミングを合わせろ。いいな?」

「いつでも!」

「こっちもオッケーだ」

「いくぞ!」


 男たちは懐からそれぞれの杖を取り出すと、ライルに向かって一斉にそれぞれ得意の攻撃魔法を唱える。


「ファイアーストーム!」

「ライトニングボルト!」

「サイクロンストーム!」

「ロックブロック!」


 炎の渦が、荒れ狂う(いかづち)が、吹き荒ぶ嵐が、巨大な土の塊が互いを巻き込み、一つの強大な力の奔流となってライルへと襲いかかる。


 瞬間、ライルを中心に、まるで世界がひっくり返ったかのような巨大な爆発が起こる。


「くうぅ……」


 爆発の余波によって生まれた衝撃波と轟音に、男たちは吹き飛ばされないように必死にその場に踏み止まりながらも、尚も攻撃魔法を行使し続ける。

 万が一にも対象が魔法の範囲から逃れ、命を拾うようなことがないように、念入りに殺すことを考えて魔法を放ち続けた。




 それからおよそ三分間にも及んで、男たちはライルに向かってそれぞれの攻撃魔法を唱え続けた。

 ライルが立っていた場所は、幾重にも重なった爆発によって黒い煙が充満し、一寸先すら見えないほどになっている。


 周囲の地形も大きく変わり、一部は大きく抉れ、一部は大きく隆起し、隆起した部分は黒い炭となってブスブスと煙を上げながら焦げた臭いを周囲に撒き散らしていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 炎の魔法を放ち終えた男は、大きく息を吐きながら流れてきた汗を拭う。


 それは魔法を行使したことによる疲れよりも、爆発によって生まれた熱で、周囲の気温が一気に上がったことが影響の方が大きかったが、男の顔には一仕事やり終えた達成感が浮かんでいた。


「どうだ……これで…………流石にやっただろ」


 口元に笑みを浮かべながら、男はライルの死を確信する。



 だが、


「……ぬるいな」


 煙の向こう側から声が聞こえたと思ったら、人影が飛び出してきた呆然と立ち尽くす男の首を掴む。


「ぐがっ!? あ……ああ……」


 首を掴まれたまま持ち上げられた男は、息ができない苦しさにもがきながら、自分を掴んでいる者の正体を見て驚愕に目を見開く。

 そこにいたのは、傷一つ付いていない……精々、着ている服の一部が焦げて肩が露出した程度の被害しか受けていないライルが獰猛な笑みを浮かべていた。


「この如何ともし難い実力差がわからぬ愚か者が……死ね!」


 ライルは端的に呟くと、男の首を軽々とへし折って投げ捨てる。


「ば、馬鹿な!」

「一体何をしだ!」

「何を……だと?」


 さらに仲間を一人失い、混乱の極みに陥っている男たちにライルは呆れたように話す。


「わからないのか? 我はただ、自分に強化魔法を使っているだけだ」

「きょ、強化魔法だと!?」

「そんな誰もが使える初期魔法程度で、我々を圧倒したというのか!?」

「そのようなもので、五年以上もの辛い修行に耐えてきた我々を上回るなどありえん!」


 攻撃魔法が使えないライルの取った手が、まさかただの強化だと聞かされ、男たちは愕然となる。


「……フッ、お前たちはつくづく疎かだな」


 ライルはゴキリ、と腕を鳴らすと、次の標的に向かって一気に距離を詰める。


「たかだか五年程度の修行で辛いだと?」


 怯える男の腹に体重の乗ったボディブローを喰らわせ、肋骨の全てと内臓を破壊する。


「我は少なくともその三倍、一秒たりとも欠かさずに魔法を行使し続けたぞ」


 大きく跳ん上空から逃げ出そうとした男の顔面に強烈な蹴りを喰らわせ、そのまま首から上を胴体と乖離させる。


「馬鹿な……こんな……」


 一瞬にして一人になった男は、その場にへたり込んでガタガタと震え出す。


「こんなことになるなんて……わ、我々が学んできたことは全て無駄だったのか?」

「ハッ、何を嘆いておるのだ」


 ライルはズカズカと無遠慮に歩きながら、男に向かって捲し立てる。


「お前がここで死ぬのは、様式美を理解しておらんからだ」

「様式……美?」

「フッ、低俗な貴様には理解できまい」

「な、何を……」


 言われたことの意味がわからず、男は滂沱の涙を流しながらライルを見上げる。


「さて、少し長話が過ぎたな……これで終わりにしてやろう」


 しかし解答を求める男の願いも空しく、ライルは鉄拳を振り下ろして彼の脳を一撃で砕いて殺してしまった。



 だが、ライルが語る様式美の本質を聞いても、男はきっと理解できないだろう。

 それは魔王の配下である男にとっては、ただの理不尽に過ぎないのだから。


「やれやれ……これであの怪鳥もどうにかなるだろう」


 五人の男を殺し尽したライルはなんの感傷にも浸ることはなく、何事もなかったかのように最後の男の死体を蹴り飛ばすと、リリィたちの下へと取って返すのであった。

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