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不死使い(ネクロマンサー)たち

 人気のないところまで移動したライルは、周囲に誰もいないことを確認すると、ふわりと浮いて天高く舞い上がる。


 一気に加速して雲上まで上昇したライルは、肩の力を抜くように大きく息を吐く。


「……さて、それでは不届き者を探すとするか」


 そうしてゆっくりと目を閉じたライルは、身体強化の魔法を耳に使って聴力を上げる。

 本当は索敵魔法を使えば相手の位置を見つけるのは容易いのだが、索敵魔法は優秀な魔法使い相手だと逆に感知されてしまうリスクがあるため、こうして耳を澄ますことで相手の位置を探る。


「…………」


 両手に耳を当て、意識を集中させると風の音が、草木の擦れる音が、野生動物の息遣いまでもが聞こえてくる。


 その中で、


「リリィ、ダメですわ。グランデラパスを倒すには、先ずは不死使い(ネクロマンサー)を見つけないと」

(ほう……)


 グランデラパスと奮闘しているアイリスの叫び声を聞いて、ライルは密かに感心する。


 アイリスは、グランデラパスの様子からあの怪鳥が既に死んでおり、不死使いによって操られているだけの存在となっていることに気付き、どう対処すればいいのかを正しく理解していた。


 不死使いは外法と呼ばれ、正義を志す魔法使いであるなら忌避して見るのも嫌う不死使いとしての力を、王族であるはずの彼女がしっかりと学んでいるとは思わなかったのだ。


(これは……アイリスを正式な仲間と加えることも考えるべきだな)


 そんなことを考えながら、ライルはさらに周りの音へと集中する。



 グランデラパスが姿を見せたことが影響しているのか、周辺には魔物の気配は殆どない。

 どうやら空の王者の戦いに巻き込まれるのを恐れて、戦いの及ばない範囲へと逃げているようだった。

 この状況を好機と見たライルは、さらに意識を深く集中して周囲の音を探る。



 そうして、数百メートル、果ては数キロ先の息遣いまで聞き取るように集中して探ること数分……、


「見つけた」


 とうとう不死使いと思われる怪しい音を拾ったライルは目をカッ、と見開くと、音のした場所へとグランデラパス顔負けの急降下で向かった。




 リリィたちがグランデラパスと戦っている場所から数キロ、草原が一望できる崖上に、全身をすっぽりと覆うような黒いローブに身を包んだ者が五人、並んでいた。


「ククク……どうやら勇者たちは不死(アンデッド)を倒す術は持たぬようだ」

「当然だ。冒険を初めて間もない、正式に勇者と認められていない者に、そのような力あるものか」

「今は魔法使いの女によって攻勢を維持できているが……果たして何時まで持つかな?」

「ククク……」

「ハハハ……」


 声の様子から五人全員が男であることがわかると同時に、男たちの背後に何かが墜落して、轟音を響かせながら視界を覆い尽くさんばかりの砂埃が舞う。


「な、何だ……何が起こったんだ」

「わからん、ただ警戒しろ。もしかしたら勇者の仲間かもしれん」

「だとしても、我等五人を相手にして勝てるものか」

「そうだ。落ち着いて対処すれば、我々に負ける要素など無い」


 激しく舞う砂埃に一瞬だけ動揺をみせた男たちだったが、すぐに気を取り直して互いを守れるような布陣で砂埃が晴れるのを待つ。



 程なくして砂埃が晴れ、墜落の衝撃でできた巨大なクレーターの底にある影が動く。


「……様式美もわからぬ愚か者共よ。覚悟はいいか?」


 そうして現れたのは、怒髪天を衝く様で怒り狂う一人の男だった。




「お前等が、あの怪鳥を操る不死使いだな」


 悠然とした足取りでクレーターから這い上がりながら、ライルが男たちに問いかける。


「答えろ。誰の差し金でこんな真似をした」

「な、なんだ、お前は……」

「我か? 我はお前たちが殺そうとしている勇者の兄だ」

「な、何だと!?」


 ライルが名乗りを上げると、男たちの間に動揺が広がる。


「勇者に兄などいたのか?」

「わからん……勇者の村は、長らく我々の干渉が及ばなかったからな」

「だが、よく見ればこの男、勇者に偉そうに指示をしていた奴だ」

「では、こいつも相当な実力の持ち主なのか?」

「待ってろ……今こいつの強さがわかる」


 ライルの登場に驚く男たちの最後尾にいる男が、ライルに向かって鑑定(アナライズ)の魔法を使う。


 すると、


「ハッ、何だこいつ……魔法使いなのに、攻撃魔法が一切使えないぞ」


 ライルの欠点を見抜いた男が、身を捩りながら笑い出す。


「ハハハ、何だよ。並の補助魔法しか使えないのに、大袈裟に登場してみせたのかよ」

「じゃあ、さっきの登場も、我々を欺くためのハッタリか?」

「違いない。残念だったな、他の者はそれで騙せたかもしれんが、我々には通用せんぞ」


 次々と浴びせられる嘲笑に、ライルは苛立ちを露わにするように、凶悪な笑みを浮かべる。


「御託はいい……我は今、非常に機嫌が悪いのだ」


 ライルは首をコキコキと鳴らすと、人差し指で男たちを挑発するように手招きする。


「五人まとめてかかってくるがいい。我が暫し遊んでやろう」

「「「「「…………」」」」」


 ライルの言葉に、五人の男たちは言葉を失ったかのように呆然と立ち尽くしていたが、


「「「「「ハーッハッハッハッハッハッハ…………」」」」」


 次の瞬間、堰を切ったかのように一斉に笑い出す。


「おいおい、攻撃魔法も使えない魔法使いが、我々相手に遊ぶ、だと?」

「冗談も大概にしろよ」

「この出来損ないの雑魚魔法使いがよ」


 続けて、魔法使いとしての欠陥のあるライルに向かって罵詈雑言を次々と浴びせる。


「……まあまあ、ここまで一人で来たんだ。その勇気だけは認めてやろうぜ」


 そんな中、一人の男がゆっくりと前へ進み出てライルの前に立つ。


「流石は勇者の兄ということか……その勇気に免じてこの俺が相手をしてやろう」


 そう言うと、男はローブの下から指揮棒のような杖を取り出し、


「ファイアーストーム!」


 いきなりライルの足元へと向かって魔法を放つ。



 不意を打たれたライルは、避ける間もなく足元から発生した火柱に包まれる。


「ハハハ、あっという間に終わったな。どうやら本当に口先だけの雑魚だけだったようだな」


 一瞬で炎に包まれたライルを見て、勝利を確信した男は声高々に笑い出す。

 だが、


「……何を喜んでいるのだ?」


 まだ火柱は消えていないのに、まるで何事もなかったかのように平然と炎の中からライルが現れる。


「まさかこの程度の魔法で、我を倒せるとでも思ったのか?」


 そう言うと、ライルは地面を力強く蹴って一気に前へと出る。


「んなっ!?」


 一瞬にして間合いを詰められた男は、驚愕の表情を浮かべながらも、次の魔法を唱えようと杖を構える。


「……遅いな」


 だが、ライルは男の腕を楽々と掴むと、そのまま掴んだ腕に力を籠める。


「あが……ががが……」


 骨がミシミシと音を立てて悲鳴を上げる音が聞こえ、男が苦し気に呻き出す。


「どうした? 苦しいのか?」


 顔中に脂汗を浮かべる男の表情を見て、ライルは嗜虐的な笑みを浮かべる。


「なら、次から覚えておけ……鑑定の魔法程度で人を侮るな、とな」


 そう言うと、ライルは腕を掴む手にさらに力を籠め、男の腕を容赦なくへし折った。

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