倒せない魔物
イリュージョニストの効果が切れてしまった今、アイシクルミストによる霧の効果は望めないと踏んだリリィとアイリスは、魔法を解除して正面からグランデラパスと渡り合っていた。
「リリィ、いきますわよ! フレイムバレット!」
樫の木の杖を構えたアイリスが真っ直ぐ突撃してくるグランデラパスに向かって、炎の散弾を解き放つ。
「――ッ!?」
広範囲に撒き散らされた無数の炎を前に、驚いたグランデラパスは堪らず急制動をかけながら魔法の範囲から逃れるように右に旋回しながら着地する。
「やああああぁぁ!」
グランデラパスが着地すると同時に、裂帛の雄叫びを上げながら飛び出したリリィが、怪鳥の右の翼を折れた剣で袈裟斬りにする。
「グゲゲゲエエエエエェェェ…………!」
右の翼を半ばで千切られたグランデラパスは、痛みに悲鳴を上げながらも、無事な左の翼を振って、羽根の礫をリリィへと飛ばす。
「――っ、甘いです!」
自分へと放たれた羽根を、リリィは大きく跳ぶことなく、左右にステップを踏みながら後退しながら回避する。
すると、羽根の礫に追従するかのように、黒い触手がリリィのいた場所へと殺到してくる。
だが、その頃にはリリィはグランデラパスからかなり距離を取っており、黒い触手は近くの草木を取り込むと、口惜しそうに本体へと戻って、斬られた翼を繋ぐように蠢く。
「もう、やっぱりダメか……」
何度目かのアプローチも失敗に終わったことに、リリィは舌打ちしながらグランデラパスが回復する時間を使って距離を取る。
ライルの指示に従い、グランデラパスから逃げながら光明を探ることにしたリリィたちだったが、当然ながらそれは容易ではなかった。
相手は大空を自由に駆けることができる王者で、こっちは地面を這いずり回ることしかできない人、機動力に段違いの差がある時点で、リリィたちに逃げられる術はないかと思われた。
だがその時、リリィが天才的な妙案を思いつく。
「相手が空を飛ぶのなら、飛ばれる前にその翼を切ってしまえばいいのではないですか?」
すぐさまその案を採用したリリィたちは、とても急増のコンビとは思えない斬撃と魔法による見事な連携を見せ、グランデラパスの翼に大ダメージを与えることに成功する。
しかし、翼にダメージを与えても、首元にダメージを与えた時と同様に、グランデラパスの体内から黒い触手が飛び出して来て、リリィたちに襲いかかり、ある程度距離を取られると体内へと戻って傷の修復を行った。
しかも、黒い触手によって傷の修復作業が行われている間は、グランデラパスは動きを止めることがわかった。
これを利用して、リリィたちはグランデラパスの傷が回復する間に、距離を取って体力回復に努め、接近を許したらまた翼を破壊するということを繰り返していた。
「……本当に、私たちでは倒せないのかな?」
ライルの「絶対に倒せない」という言葉を思い出しながら、リリィは後方で待機して、グランデラパスの様子を観察していたアイリスの横へと並ぶと、二人揃って走り出す。
グランデラパスが黒い触手による回復行動に入ったのを確認して、リリィはアイリスへと話しかける。
「どうです。アイリス、何かわかりましたか?」
「ええ……誠に遺憾な事実がわかりましたわ」
「遺憾?」
意外な言葉の登場に、リリィは小首を傾げながらアイリスへと問う。
「それで、何が遺憾なのですか?」
「それはあの、グランデラパスが既に死んでいることですわ」
「えっ……ええっ!?」
アイリスのまさかの結論を聞いたリリィは、目をまん丸に見開いて驚愕の表情を浮かべる。
「えっ、で、でも……あの鳥、生きてますよね?」
「そう見えるだけですわ。実際に死んだのがいつかは全く想像つきませんが、あの怪鳥は、今は何者かによって操り人形にされているのですわ」
「操り人形……そんな力があるのですか? それに、一体誰に?」
「ええ、それは魔法使いの中でも、外法と呼ばれる死者を操る魔法使い……」
アイリスは黒い触手に包まれるグランデラパスを見て、何処か憐れむように目を伏せながら敵の正体を告げる。
「不死使いですわ」
「全く、ふざけおって……」
リリィたちを見捨てて一人逃げ出したライルは、走りながら一人で毒突いていた。
「まだ冒険を初めて間もないリリィにあんな大型の魔物をぶつけるだけでなく、不死使いによる不死だと!?」
どうしてライルがそこまで怒りを露わにしているかと言うと、不死となった魔物の特性にあった。
不死となった魔物は、通常の攻撃でどれだけ傷付けても意味はなく、倒すには僧侶による対不死用の専用魔法か、炎の魔法で肉片すら残さずに焼き尽くす必要があった。
アイリスは魔法使いとしてはそれなりに優秀で、グランデラパスの巨体を肉片すら残さずに焼き尽くすことも可能かもしれない。
だが、そこに不死使いという因子が入ることで、不死となった魔物は格段にその強さを増す。
僧侶による対不死用魔法も、炎による攻撃も、不死使いがいれば対象が死に至る前に回復させることができる。さらには不死となった魔物で相手を倒すことができれば、自分の手駒に加えることができるというおまけもついてくるのだ。
故に、不死使いに使役されている魔物を倒すには、何よりもまず術者を見つけて倒す必要があった。
ライルが二人を置いてあの場を逃げ出したのは、この近くに潜んでいるはずの不死使いを見つけて倒すためであった。
「全く、どいつもこいつも勇者の冒険のセオリーを無視しおって……この世界は一体どうなっているのだ!」
ライルは苛立ちを露わにするように、近くにある岩を思いっきり蹴飛ばす。
「――っ!?」
だが、ライルの力程度では岩を砕けるはずもなく、返り討ちにあった彼は足を押さえて痛みにのたうち回る。
「お、おのれ……このままで済むと思うなよ」
勝手に自爆して起きながらライルは、まだ見ぬ敵に対し必要以上の殺意を抱き、目を合わせた者が卒倒してしまいそうなほどの凶悪な表情を浮かべた。




