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鳥籠の中の怪鳥

 霧の中で困惑するグランデラパスを見ながら、アイリスは口に笑みを浮かべる。


「フフッ、なるほど……デカい口を叩くだけのことはありますわね」


 油断なくグランデラパスの動きに注視しながら、アイリスは樫の木の杖を振って周囲の霧を生み出している魔法、アイシクルミストを重ねて唱える。



 このアイシクルミストという魔法は、周囲の空気を冷やして霧を発生させるのだが、相手の目をくらませる以上の効果はなく、しかも下手に使うと味方の視界も奪って戦況を混乱させるだけなので、習得しても使う者は殆どいない稀有な魔法である。


 だが、今回はそこにライルの知恵が加わることで、この役立たずの魔法が激変していた。


 一つは霧の密度……アイシクルミストを使う前に、ファイアーストームの魔法で周りの空気が暖められていたため、霧が発生しやすい条件が整って通常より濃度の高い霧が発生したことだ。


 そしてもう一つは、ライルがアイリスの魔法に重ねるように仕掛けておいた、相手に幻を見せる魔法、イリュージョニストによって霧の中に入ったグランデラパスの視界を誤認させていることだった。



 これにより、ただの霧は入ったものを惑わせる幻惑の霧へと変わり、この中に入った者は、知らない間に五感を狂わされ、相手をまともに捕捉できなくなるのであった。


「クケエエエエエエエエエェェェ!!」


 すると、再びグランデラパスの嘶きが聞こえ、怪鳥が羽根の礫を飛ばすが、放たれた先には何もなく、地面に羽根が次々と突き刺さる。


「全く……何が攻撃魔法は一切使えないですわよ。それ以外の魔法は、一流どころか超一流じゃありませんの」


 怒り狂ったように叫ぶグランデラパスの嘶きを耳にしながら、アイリスはライルの魔法の効果に舌を巻く。


 相手に幻を見せるイリュージョニストという魔法は、防ぐことが難しく強力だが、相手がこの魔法にかけられたと理解した時点で、魔法の範囲外に逃れる。頭部に一定上のショック与える等の対処をされて、簡単に見破られてしまう魔法である。


 故に、この魔法で大事なことは、自分が幻惑魔法にかかったと思わせないことである。


 現在、グランデラパスの目には、アイリスが高速で攻撃を躱しながら、その場から動けないように全包囲から挑発を繰り返しているはずである。



 もしかしたらイリュージョニストにかかったのでは? という予感はグランデラパスの脳内に既にあるかもしれない。

 だが、魔法から逃れるために逃げ出したところを攻められたり、幻だと思って目を閉じた瞬間に襲われたりしたらことである。


 何よりアイシクルミストによる濃霧と副産物である寒さが、グランデラパスの判断力を奪っており、それ故に怪鳥は、幻のアイリスから身を守るように牽制を繰り返しているのであった。


「最初にわたくしにファイアーストームを使わせたのも、この状況を作るためなのだとしたら……一体どれだけ先を見通しているのですの」


 先程リリィが「ライルが作戦を指示してくれるのであれば、勝ったも同然」と言っていたが、その通りかもしれないとアイリスは認識を改める。


「こうなった奴は鳥籠の中も同然、こうなると後はあなたの仕事ですわよ……勇者リリィ」


 アイシクルミストによる霧が晴れないように注意しながら、アイリスはグランデラパスに止めを刺す役目を担った勇者の健闘を祈った。




「フフッ、流石はお兄様です」


 慌てふためくグランデラパスを見ながら、近くの草むらで身を隠していたリリィがニヤリと笑いながら腰の剣をゆっくりを引き抜く。


 ゴブリンとの戦闘で半ばから折れてしまった愛剣ではあるが、逆に考えればまだ半分も残っているともいえる。

 これでもまだナイフよりは刃の長さはあるので、相手と切り結ぶのでなければ、背後から奇襲を仕掛ける程度であれば何も問題はなかった。


「さて……」



 リリィは軽く剣を振って周囲の草を刈って切れ味を確認すると、立ち上がって移動を開始する。

 向かうは、あらぬ方向へと威嚇を繰り返しているグランデラパスの背後だ。


 ライルからリリィに与えられた指示は、グランデラパスの背後からの奇襲で奴に止めを刺すことだった。

 勇者として、正々堂々と正面から戦うべきという疑問もあるかもしれないが、ライルからの指示という時点で、リリィにとっては背後からの奇襲すら正道であると信じていた。


「クケエエエエエェェェ!」


 濃霧による援護があるとはいえ、グランデラパスの攻撃はどれも脅威であり、まともな防具を装備していないリリィでは全て致命傷となり得る。

 故に、リリィは状況を過信せず、息を殺して足音を立てないようにグランデラパスの背後へと近付く。



 そして、十分に距離を詰めたところで、


「…………お兄様、いきます」


 小声で何処かで見ているであろうライルに向かって宣言すると、足に力を籠めて一気に距離を詰める。


 暗殺である以上、派手な音を立てないように移動し、最後の数メートルは草の立てる音すら避けるために大きく跳ぶ。


 そうして天高く舞い上がったリリィは、


「シッ!」


 短く息を吐きながらグランデラパスの背後、その首元へと剣を深々と突き立てた。

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