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無礼なお姫様

 アイリスと名乗った女性は、樫の木の杖を振るって炎の柱の魔王、ファイアーストームを唱えてゴブリンが湧いてきた馬車を燃やし尽すと、乗合馬車の御者に手早く指示を出して王都へと向かわせた。


 御者はアイリスの顔を知っているのか、まるで狐につままれたかのように、終始呆然とした様子で彼女の指示に従っていた。



 そうして、馬車が無事に王都へと向かうのを見届けたアイリスは、


「……さて、お話を聞かせてもらってもいいかしら?」


 ピンクブロンドの髪を掻き上げて優雅に笑うと、折れた剣を回収してきたリリィに話しかける。


「あなたが勇者様で間違いないのよね? お名前を聞いてもよろしいかしら?」

「あっ、はい、私が神様に選ばれた勇者、リリィです。その、あなたはお姫様…………テイラーさんが話していたアイリス様なのですよね?」

「ええ、わたくしがアイリスですわ……そう、あの店主と無事に会えたのですのね」


 テイラーの名前を聞いて、アイリスはホッとしたかのように胸をなでおろす。


「はぅ…………」


 日々の教育の賜物なのか、そんな何気ない仕草も優雅に見えて、リリィは思わず感嘆の溜息を漏らす。


 自分の姿にリリィが見惚れていることに気付いているのか、アイリスは「フフン」と得意気に笑うと、リリィの後ろに控えるライルへと目を向ける。


「それで、そちらの殿方は何者なのかしら?」

「我はリリィの兄のライルだ。それよりお前……アイリスと名乗ったが、本当にこの国の姫なのか?」

「ええ、当然の疑問ですわね」


 ライルの疑問に、アイリスは樫の木の杖を脇に挟むと、自身が着ているローブの前をはだけさせて、金の刺繍が施されたいかにも高そうな朱色のドレスを露出させる。


 リリィとは比べ物にならない豊かな胸を持つアイリスは、大きく開いた胸元へと手を差し入れると、中から大きな雨雫のような形をした水色の宝石がついたネックレスを取り出す。


「わぁ……」


 陽光を受けてキラキラと輝く宝石を見て、リリィが目を大きく見開いて目を輝かせる。


「凄く綺麗で大きな宝石ですね」

「ありがとう。これは王家に伝わる女神の涙と呼ばれる宝石ですわ。今ここで出せる証拠はこんなものしかないのだけど、これで十分かしら?」


 宝石を眼前に突き付けられたライルは「ふむ」と小さく頷く。


「そうだな……そんな高級な宝石、とてもじゃないが庶民が持つことなど不可能だろう」

「そう、助かりますわ……」


 ライルが頷くのを確認したアイリスは、宝石を大切そうに胸にしまってローブを元に戻すと改めて質問する。


「それで、リリィのお兄様は、どうして彼女と一緒に戦わないのですの?」

「単純な話だ。我はただの付き添いだからな」

「えっ? 付き添い?」

「あっ、アイリス様、実はですね……」


 思わず疑問符を浮かべるアイリスに、リリィがすかさず自分とライルの関係について説明する。




「そう、戦う力をもたないから、見守るだけの存在ねぇ……」


 リリィから説明を聞いたアイリスは何ともいえない微妙な表情を浮かべると、腕を組んで仁王立ちしているライルを見る。


「でもあなた、さっきはリリィを守るためにゴブリンに魔法を使っていたわよね?」

「別にそれくらいどうということはないだろう。そこら辺の村人でも、簡単な回復魔法や、補助魔法の一つや二つは唱えられる」

「そうですわね……簡単な魔法の一つや二つなら、ね」


 ライルの言葉に不服なのか、アイリスは樫の木の杖を構えると、


鑑定(アナライズ)!」


 ライルに向かって、いきなり相手の能力を見る鑑定の魔法を唱える。


「なっ!?」


 初対面の人に向かっていきなり鑑定魔法を使うというマナー違反に、リリィは目くじらを立てる。


「ア、アア、アイリス様! いくらなんでもいきなり失礼じゃありませんか!?」

「アイリスでよくってよ、リリィ……何これ…………これだけ魔法が使えるのに、攻撃魔法が一切使えないですって? そんなこと………………嘘…………」

「えっ…………」


 驚いて口を両手で塞ぐアイリスを見てリリィの好奇心に火が点いたのか、マナー違反を注意したのも忘れてピンクブロンドのお姫様の後ろに回ると、肩口からそっと彼女が見ているものを見ようとする。


 だが、


「うぅ……何も見えません」


 魔法を発動した本人にしかステータス画面は見えないようで、リリィは残念そうに肩を落とす。


「リリィ……」


 サッと樫の木の杖を振って魔法を解除したアイリスは、リリィを見て呆れたように嘆息する。


「あなた、わたくしのことを注意しておきながら、それはないんじゃないのですの?」

「で、ですが、お兄様の秘密を知れると思ったらつい……」

「そう……あなたもお兄様のことが大好きなのね」

「も? ということはアイリス様も?」

「だからアイリスでいいと言ってるでしょ。そうですわ……」


 アイリスは悲しそうに目を伏せると、胸の中にしまった宝石に手を這わせながら泣きそうな声で話す。


「わたくしは心からお慕いしていたお兄様の遺志を継ぐために、ここであなたたちを待っていたのですわ」

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