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情報提供者は……

 身なりのいい男の一言に、店内がまるで時が止まったかのように凍りつく。

 ただ、それもほんの一瞬のことで、


「な、何を馬鹿なことを言っているんだ!」

「そんなわけないだろう!」


 強面の男たちは、最初から身なりのいい男の言葉を嘘と決めつけ、彼を糾弾するように声を上げる。


「こいつ、俺たちが金を持ってない小市民だからってからかっているに違いない!」

「馬鹿にしやがって」

「おい、皆で吊るし上げてやろうぜ!」

「ち、違う!」


 身なりのいい男が必死に取り繕おうとするが、格好の違いから男に劣等感を抱いている者たちは、聞く耳を持とうとしない。


「――っ、いけない!」


 このまま放っておけば一方的なリンチに発展しかねない状況に、リリィは椅子を鳴らして立ち上がって必死の形相でライルの方を見る。


「お、お兄様止めないと……それに今、魔王って」

「ふむ、穏やかじゃないな」


 リリィの言葉に頷いたライルも立ち上がると、ゆっくりとした動作で黒山の人だかりとなっているテーブルへと近付き、一番外側にいる細身の男の肩を無遠慮に掴む。


「おい……」

「あっ、何だよ? 今、取り込んで……」


 いきなり肩を掴まれたことに、苛立ちを露わにしながら細身の男が振り返るが、


「いる……んです」


 その気迫がみるみるうちに失われていき、顔色も怒りの赤から恐怖の青にまで変化する。


 それも無理もない話だった。

 振り返ったら途端、目の前に明らかに致命傷にしか見えない大きな傷痕を額に持ち、全く堅気に見えない鋭利な眼光を持つ男が自分を射貫くように睨んでいたのだ。


「悪いがそこの男に用がある。どいてもらえるだろうか?」

「は、はい……それはもう」


 ライルに睨まれた細身の男は、ガタガタと小さく震える体をどうにか制御し、無理矢理な笑みを浮かべながらその場を退く。


「ささっ、どうぞどうぞ」

「うむ、感謝する」


 ライルは鷹揚に頷くと細身の男の肩をポン、と軽く叩きながら前へと出る。


「ヒ、ヒイイィィ!」


 ただ感謝の意を伝えただけなのに、細身の男はこの世の終わりのような悲鳴を上げると、一目散に宿屋から飛び出していく。


「おい、いい加減に嘘と認めないと……」

「どうな……るか…………」


 細身の男の悲鳴を聞いて、強面の男たちが怒鳴りながら振り返ったかと思うと、揃って口を噤む。

 誰もがライルが放つ、只者ではない見た目と雰囲気に圧倒されていた。


 ライルは男たちをゆっくりと見渡し、自分の顔を見た全員が恐怖で固まっているのを確認すると、静かな声で切り出す。


「悪いがその者の話を詳しく聞きたいから、退いてもらえないだろうか?」

「「「は、はい、どうぞ!」」」


 その要望に強面の男たちは揃って頷くと、まるで海を割ったモーゼのように一糸乱れぬ動きでライルに道を譲った。




 男たちを退けたライルは、朝食を食べながら話を聞くために、身なりのいい男と卓を囲むことにした。


「す、すみません。助けていただいて……」

「いえいえ、気にしないで下さい。当然のことをしたまでですから」


 恐縮する身なりのいい男に、リリィは笑顔で話しかける。


「私はリリィと言います。そちらは私のお兄様でライルという名前です。それでその……」

「テイラーです。王都で洋品店をやっていました」

「そうですか。よろしくお願いしますね。テイラーさん」

「は、はい……」


 リリィがニッコリと笑うと少しは緊張が解けたのか、テイラーの顔に笑顔を灯る。


「それで、私の話を聞きたいとか……」

「はい、そうです。少し気になる単語が出てきたので、勇者の私としては見逃せないなと思いまして」

「勇者……では、リリィさんのお兄さんが?」

「いや、我ではない」


 テイラーの言葉にライルは首を横に振ると、ニコニコと笑顔を浮かべているリリィを指差す。


「勇者はそこにいる妹のリリィだ。我はただの付き添いであって、それ以上でも以下でもない」

「は、はあ……付き添い? ですか」


 一体勇者の付き添いが何を意味するのかよくわかっていないテイラーは、眉を顰めて疑問符を浮かべるが、今はそれが本題ではないとすぐに気を取り直す。


「でも、幸運でした。王都から逃げて来て、まさかこうして勇者様に巡り合えるとは思いませんでしたから」

「いえいえ、これもきっとテイラーさんの日頃の行いがいいからですよ」


 リリィは屈託のない笑みを浮かべると、静かな声で本題を切り出す。


「それで、王都は本当に魔王によって陥落したのですか?」

「はい……間違いありません」

「ということは、街の中にはかなりの魔物がいる感じですか?」

「いえ、街の中は至って平穏そのものです。ですが、城の中にはかなりの魔物がいると思われます」

「なるほど……」


 一応、頷いてみたリリィであったが、よく理解できなかったのか、困ったような顔でライルへと目を向ける。


「お兄様……どういうことなのでしょうか?」

「ふむ、おそらく中から国を支配しようということだろう」

「中から…………国を?」

「わからないなら後で教えてやる……ところでテイラーとやら、一つ聞きたい」

「は、はい……何でしょう」


 緊張したように背筋を伸ばすテイラーに、ライルはテーブルに肘を付きながら質問する。


「見たところ、貴様は市井の者のようだが、一体誰から、どうやって城内の情報を得たのだ?」

「は、はい、それはとあるお方から聞きました」

「とあるお方……」

「はい、実はですね……」


 聞かれてはマズい話なのか、テイラーはキョロキョロと周囲を見渡しながら、声を潜めて話す。


「……私にその情報をくれたのは、国王の末姫であるアイリス様なのです」

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