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ターゲットとは……

「な、何を言ってるのよ!」


 灯りの魔法で照らされた倉庫内に、興奮したティッキーの怒声が響く。


「私たちは村長の家で食べた料理で一服盛られたのよ? そして、その料理を用意したのは村長ではなくそこの女よ! だったらこの女も村長の一味でしょ!」

「そうだな。ある意味ではお前の認識は正しい」


 興奮しながら老婆を指差すティッキーの指摘に、ライルはゆっくりと頷く。


「料理を用意したのが家長の老婆である以上、彼女が全くの無関係ということはない。だが、考えてみろ。この老婆が村長とそれに与する男たちの命令を跳ね除けられると思うか?」

「そ、それは……」


 実際に地下で男たちに嬲り続けられたティッキーだからこそ、ライルの言いたいことが痛いほどわかった。


 もし、老婆が村長の言うことを聞かなければ、男たちの慰み者にされる可能性は低いだろうが、彼女に……もしくは彼女が大事にしている何かしらに被害が及ぶことは容易に想像ついた。

 状況を理解したのか、ティッキーの指が力なく下がるのを見て、ライルは頷きながら静かに話す。


「そういうことだ。この老婆は自分の意志とは関係なく動かされていただけだ。夫の暴走を止めなかったという意味では同罪かもしれないが……どうする? この老婆にも復讐するか?」

「――っ!?」


 その言葉に老婆はビクリ、と体を震わせるが、既に覚悟は決まっているのか顔を伏せたまま、ティッキーからの裁定を待つ。


「…………もう、いいわよ」


 ティッキーは「はぁ……」と諦めたように肩をがっくりと落として嘆息する。


「流石に無抵抗のお婆さんをどうにかするほど、狭量じゃないわ」

「そんなことをすれば、明日からの目覚めが悪くなるしね」

「……ありがとうございます」


 女性二人からの許しの言葉に、老婆は深々と頭を下げながら礼を言う。

 たっぷり十秒は頭を下げ続けた後、おそるおそる顔を上げた老婆は、まだ不満そうに不貞腐れた顔をしているティッキーに尋ねる。


「あ、あの……それで、あの人は?」

「ああ、心配しないでいいわ。殺してはいないわ」

「……えっ?」

「あっ、でも、男としては二度と使えなくしたから、当分立ち上がることもできないと思うわ……それぐらいはやって当然でしょ?」

「は、はい、それはもう……」


 老婆は何度もペコペコと頭を下げながら、地下へと続く階段をジッと見る。


「…………」


 そうして暫く考えた後、


「あ、あの不躾で申し訳ないのですが……」


 老婆は思いもよらぬことを言い出す。


「あの地下へ続く入口を、塞いでいただけませんか?」

「…………えっ?」


 その言葉に、今度はティッキーが驚きで目を丸くさせた。




 老婆の真意はわからないが、ライルたちは彼女の指示に従って倉庫へ続く地下への扉を閉めた後、上に倉庫内の荷物を置いて中から開けられないようにした。


「ふぅ……ありがとうございます」


 地下への入口を完全に塞いだ老婆は、ライルたちに深々と頭を下げる。


「これで、私たちも安心して眠ることができます」

「えっ? それって……」

「はい、お話しします……全て」


 困惑するティッキーに、老婆はこの村で起きていることについて語り出す。




 老婆が暮らす石の村は、昨日に村長がライルに語った通り、かつては豊富に取れる石材によって裕福な暮らしができていた。


 しかし、ある程度周囲のインフラが整い、近隣で石材が必要となくなると途端に生活は苦しくなってしまう。

 困難な状況に陥ってしまったが、領主の提案で村の近くの街道を石で整備し、訪れる旅人に自分たちの村の魅力と、技術力の高さを伝えることにした。


 そんな地道な活動が実を結んだのか、長距離に渡って整備された石の街道を見て感動したという貴族によって、村長は王都に召喚されたという。


「そして……王都から戻ってから、あの方は変わってしまったんです」


 あれだけ熱心に整備していた石の街道の制作を止め、訪れた冒険者に薬を盛っては金品を奪って殺すという行為を繰り返した。


「当然ながら私は何度も辞めるようにお願いしました。ですがあの人は、自分たちの行いが咎められることは絶対ないから大丈夫、と言ったかと思うと、次からは私たちにも薬を盛るようになったのです」

「それは、ここの領主が加担しているということか?」

「い、いえ、そんなはずはないです。領主様は本当に聡明なお方で、あの方が王都に召喚されると聞いて、まるで自分のことのように喜んでおられました」

「ふむ……」


 本気で狼狽える老婆の様子を見て、ライルは彼女が嘘を言っているとは思えなかった。

 そうして自分の妻という最後の足枷を外した村長は、その後は欲望のままに訪れる冒険者たちを次々と襲っていったという。


「だが、そんなことは可能なのか?」


 老婆の話を一旦停止させて、ライルはある疑問を口にする。


「やって来る冒険者たちを軒並み襲ったら、それこそこの村が怪しいと思われるのではないか?」

「い、いえ、その……実は襲う冒険者にはある共通点があるのです」

「共通点?」


 眉を顰めるライルに、老婆は気まずそうに視線を逸らしながら襲う冒険者の共通点を話す。


「実は、パーティに女性のいる冒険者だけを襲うようにしているんです」

「……それって自分たちの欲望を満たすため?」

「い、いえ、違います」


 ジロリ、とティッキーから睨まれた老婆は、恐怖に身を竦めながら女性の冒険者だけを狙う理由を話す。


「じょ、女性の冒険者を狙うのは、勇者を殺すためだそうです」

「……何だと!?」


 老婆の思わぬ告白に、これまでずっと余裕の表情を浮かべていたライルは、眉間にしわを寄せて険しい表情を浮かべた。

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