人として、兄として
「お、お前は……」
「どうしてここに……」
突如として入口に現れた人影を見て、男たちの顔が恐怖に引き攣る。
「どうした? 手が止まっているぞ」
固まる男たちを見て、腕を組んで扉に寄りかかるように立っているライルが唇の端を吊り上げて不敵に笑う。
「時に村長……確かこの村には、地下施設のある建物はないのではなかったのか?」
「あっ、いや……その、ここは何と言いますか……」
ライルに睨まれた村長は、目を忙しなく動かして必死に視線から逃れようとする。
ガタガタと震えながら怯える村長に、ライルはニタニタと笑いながら問いかける。
「どうした? 何か弁明があるのなら聞いてやるぞ」
「そ、それはですね……」
余裕の表情を浮かべるライルに、村長は何度も頭を下げながら、密かに男の一人に視線を送る。
「…………」
村長からの視線を受けた手に剣を持った男は、神妙な顔で頷くと、足音を立てないようにライルの死角へと移動する。
「まあ、そう急く必要もあるまい……何せ時間だけはたっぷりあるからな」
「…………ゴクリ」
ライルの注意がこっちに向いていないのを確認した男は、一気に距離を詰めて剣を振り抜く。
「死ねっ!」
男が短く声を発すると同時に、ようやく男の存在に気付いたライルの視線が動く。
だが、その時には既に男が振り抜いた剣は、ライルの首、数十センチのところまで迫っていた。
回避不能な距離にまで刃を届かせた時点で、男は勝利を確信して笑みを浮かべる。
後はこのまま剣を振り抜くだけで、勇者の兄を殺すことができる。
そう確信して、男は剣を思いっきり振り抜いた。
「…………やった」
剣を振り抜いた瞬間、男は勝利を確信して笑みを浮かべる。
だが次の瞬間、男の右足に激痛が走る。
「あがっ!?」
男が痛む足へと目を向けると、右足に自分が振り抜いたはずの剣の刃が深々と刺さっていたのだ。
「えっ……あっ、あが……ぎゃあああああああああああああぁぁぁ!!」
認識したことで痛みが一気に増したのか、男は右足を押さえて泣き叫びながらのたうち回る。
「……やれやれ、不意を打てれば我を殺せるとでも思ったか?」
叫び続ける男を睥睨しながら、ライルはやれやれと大袈裟に嘆息する。
「親切心で教えてやるが、貴様等の攻撃程度で我を傷付けられると思うなよ」
「な、何じゃと!?」
「単純な話だ……」
驚く村長に、ライルは不意打ちを仕掛けてきた男が取り落とした折れた剣を拾うと、自分自身に向かって投げ付ける。
すると、ライルの体に刃が当たる寸前、青い火花が飛び散って剣が大きく弾き飛ばされて反対側の壁へと突き刺さる。
「とまあ、こういうわけだ。抵抗するのは自由だが、そこの男と同じ結果になることだけは保証しよう」
「うぐっ、ぼ、防御魔法か……」
ライルが防御魔法を……それも見たこともない高いレベルの防御魔法を展開していると知り、村長は歯噛みして悔しがる。
だが、まだ諦める気はないのか、村長は斧を持った男に向かって叫ぶ。
「お、おい……女たちを人質に取るのじゃ!」
「えっ、あ……はい!」
その言葉に反応した男が斧をティッキーの首元へと当てながら叫ぶ。
「おい! この女の命が惜しくば、今すぐ回れ右をしてここから立ち去れ!」
「やれやれ……お前は莫迦か?」
ティッキーを人質に取られても、ライルは全く動じた様子もなく淡々と話す。
「人質というのは、その者にとってかけがえのない存在だから意味があるのだ。我と何の接点もない女を人質に取ったところで、我が応じるわけがなかろう」
「あっ……」
ライルの言葉で、自分が全く意味のない行動をしていることに気付いた男の顔から血の気が引く。
(だが……)
もう成す術はないと、絶望的な表情を浮かべる男たちを見ながら、ライルはあることを考えていた。
このまま男たちを容赦なく鏖にするのは容易い。
それこそ、これまで多くの魔物たちにしてきたように、オリジナルの魔法を駆使して、ことごとく尊厳を破壊し、完膚なきまでに殺し尽すこともできるだろう。
しかしその結果、自分は村の者たちに恐れられ、レイラたちに迷惑をかけてしまった。
それに、無関係の女たちを殺すのは忍びないし、生き延びた彼女たちがライルの悪評をばら撒く可能性もゼロではない。
それでは山間の村で犯した過ちを繰り返すことになる。
魔王ではなく人間として生きていく以上、少しは考えて生きていかねばならない。
リリィの……勇者の兄として、堂々と隣に並び続けるために……
いつか兄妹二人で、母と祖母に再会するために……
ならばここは、これまでと違う解決策を模索する必要がある。
「そう……だな」
頭を高速回転させて為すべきことを決めたライルは小さく頷くと、地に伏している二人の女性に手をかざして魔法を発動しながら話しかける。
「おい、女ども……せっかくだ。お前たちに復讐の機会をくれてやる」
「…………」
「お前たちに力をくれてやった。今なら自分の力で拘束を解けるはずだ」
「――っ!?」
ライルがそう告げると同時に、ティッキーを拘束している革のベルトが、ブチブチと音を立てながら引き裂かれる。
「……ぷはっ!?」
続いて猿ぐつわを外したティッキーは、素早く仲間の下へと駆け寄り、彼女の拘束を解く手伝いをする。
「――っ、お前等!」
自由になったティッキーたちを見て、斧を持った男が額に青筋を浮かべながら彼女たちへと斬りかかる。
「「ヒッ!?」」
一糸纏わぬ姿である彼女たちに、斧から身を守る術などない。
だが、斧がティッキーのガードした腕に当たると思われたその時、青い火花が飛び散って斧を弾き飛ばす。
「……えっ?」
「安心しろ。連中の攻撃がお前たちに届くことはない」
唖然とするティッキーたちに、ライルが二枚の外套を投げながら話す。
「ここから先はお前たちの時間だ。この男たちを煮ようが焼こうがお前たちの自由だ……存分に溜まった恨みを晴らすがいい」
「…………わかった」
ティッキーは投げられた外套を羽織って立ち上がると、
「この××××野郎!」
汚い言葉を吐きながら、もう一度斧を振りかぶろうとしている男の股間を思いっきり蹴り上げる。
「あぎゃぐぼべば……」
思いっきり股間を蹴り飛ばされた男は、悶絶しながら倒れると、ピクピクと痙攣しながら口から泡を吹いて悶絶する。
「ハハッ、いい気味……ねえ、本当に好きにしちゃっていいの?」
「構わん。お前たちが気が済むまでは、魔法で守ってやる」
「そう……」
ティッキーは立ち上がった仲間と目を合わせると、大きく頷き合う。
「それじゃあ……」
「いくわよ!」
二人の女性は獰猛に笑うと、恐怖に打ち震える男たちへと襲いかかった。




