クソ野郎共の夜
その日の夜半過ぎ、いつも通り食事に睡眠薬を盛り、家の者が寝静まったのを確認した村長は家を抜け出すと、急ぎ足で村外れにある倉庫を目指していた。
「村長……」
倉庫前まで辿り着くと、昨夜に冒険者たちを慰み者にしていた男たちが、不安そうに声をかけてくる。
「ど、どうしましょう。こんなことになるなんて聞いていませんよ」
「領主様が兵士たちを連れて家探しされたら、あの部屋がバレるのは時間の問題ですよ」
「クソッ、だから俺は嫌だったんだ」
「何言ってんだ。お前が一番、ノリノリで女たちを犯していたじゃないかよ!」
「あっ、何だよ? 女を犯すことでしか興奮できない変態がよ」
「おい、お前……言っていいことと悪いことがあるぞ……やんのか?」
「上等だ!」
「ええい、落ち着くのじゃ!」
醜い言い争いをはじめる男たちに、村長は怒声を響かせて黙らせる。
「こんなところで我々が口論しても何も始まらん。大事なのは、これから生き残るために何をするかを決めることじゃろう」
その言葉に、男たちは一斉に黙って顔を伏せる。
ライルたちを洞窟で仕留め損ねたどころか、殺された魔物が余計な一言を口走った所為で、自分たちが窮地に追い込まれてしまったのだ。
「こ、こうなったらあの兄妹を夜のうちに殺しますか?」
すると、一人の男がおそるおそる手を上げながら発言する。
「洞窟を出た時、妹の方は寝ていたじゃないですか。寝込みを襲えば……」
「馬鹿を言うな。あんな化物を簡単に返り討ちにするような連中だぞ」
「そうだぞ、それに勇者は夜には目覚めて、メシをたらふく食っているのを見たぞ」
「それに、昨日の夜に兄の魔法に返り討ちに遭ったのを忘れたのか? あの男と対面するなんて、まっぴらごめんだからな」
勇気を出して発した男の一言は、他の男たちによってあっさりと封殺される。
袋叩きにあっている男を見て、別の男が冷静に村長に話しかける。
「村長……我々に残された道は、どうにかして領主様が来る前に全てを処分して、誤魔化すしかないのではないのでは?」
「うむ……そうじゃな」
男の意見に、村長は静かに頷く。
「勇者の兄に叶わぬ以上、全てをなかったことにするしかあるまい……愉しみが減るのは惜しいが、命には代えられまい」
「そう……ですね」
「仕方ないです」
村長の言葉に、男たちは次々と頷く。
誰からも異論が出ないのを確認した村長は、大きく頷きながら今後の方針を話す。
「では、今晩をもって地下を破棄する。先ずは捕らえた女たちを処分するのじゃ」
「おう!」
男たちは頷き合うと、ティッキーたちが捕らえられている地下へと潜っていった。
「――っ!?」
地下へと続く扉が開けられる音に、ティッキーはビクリと身を震わせる。
ズカズカと無遠慮に歩く足音を耳にしながら、今日も男たちの玩具にされるのだと思うと、恐怖から体が震え、目から涙が溢れてくる。
「フーッ! フーッフーッ!」
すると、ティッキーと同じように男たちの襲来に気付いた仲間が、涙を流しながら逃げようと身を捩る。
だがここ数日、水以外のものを殆ど口にしていない彼女の体の動きは緩慢で、さらに口には猿ぐつわを嵌められているので、自殺することもできない。
本当はティッキーも彼女と同じように泣き喚き、逃げるための必死の抵抗をしたかったが、彼女の必死過ぎる姿を先に見た所為か、それとも心が折れてしまったからなのか、どうしても彼女と同じように振る舞うことができなかった。
それに、この地下に囚われた時点、自分の人生は終わったも同然だった。
奇跡的にここから出られても、こんな汚れた体では受け入れてくれる者など誰もいないだろう。
「…………」
先の見えない未来を悲観して、ティッキーは人知れず泣き続けることしかできなかった。
数秒後、部屋唯一の出口である扉が乱暴に開き、男たちがなだれ込んでくる。
だが、今日はどういうわけか昨日までと雰囲気が随分違った。
誰もが血走った目をしており、手に剣や斧を持った者すらいた。
最後にこの村の村長である老人が入って来ると、怯えたように見つめてくるティッキーたちに話しかける。
「こんばんはお嬢さん方……申し訳ないが、事情が変わって君たちを殺すことにした」
「――っ!?」
「ああ、楽にしていてくれて構わんぞ。すぐに済むからのう」
そう言って村長が手を上げると、武器を手にした男たちが前へと出てくる。
「……悪く思わいでくれ。本当はもっと、遊びたかったんだけどな……」
「君たちを殺すのは本意じゃないけど、これも仕方ないんだ」
「んー!!」
身勝手なことを言い出す男たちの言葉を聞いて、ティッキーの感情が爆発し、斧を構える男へ飛びかかろうとする。
だが、拘束された両手足は、ティッキーの意に反して全く思い通りに動いてくれない。
こんな……こんな理不尽なことが許されるのだろうか。
親切な振りして近付き、睡眠薬を盛って地下に閉じ込め、散々好き勝手に弄り続けたと思ったら、事情が変わったとか言ってゴミを捨てるかのように殺そうとする。
もう、自分の死の運命は逃れられないかもしれないが、それでもティッキーは目の前に立つ男を必死に睨みながら回らない下で呪詛の言葉を吐く。
クソ野郎共、全員揃って地獄に落ちろ! と。
「それじゃあ、お別れだ」
睨むティッキーなど意に介した様子もなく、男は淡々と手にした斧を振り上げる。
後は、この斧を振り下ろすだけで一人の冒険者の命が無残に散る。
そう思われたが、
「……やれやれ、お前たちは実にわかりやすいクソ野郎ばかりだな」
緊迫した地下室に、嘲笑するような男性の声が突如として響いた。




