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子供に嫌われし者

 戦闘の間、全く動かなかった子供であるが、ライル曰く「命に別条はない」とのことだった。


 この子が目を覚まさないのは、目隠しに強制的に眠らせる効果が付随しているからというライルの指示に従い、子供を抱きかかえて凄惨な現場から遠ざけたところで、リリィは目隠しを外してやる。


 目隠しを外すと、すやすやと穏やかな寝息を立てている子供、可愛らしい男の子の顔が露わになる。

 余りにも気持ちよく眠っているので、少しだけ起こすのは気が引けるリリィであったが、まだ完全に安全と決まったわけでない洞窟内で、子供を抱えて移動するのは危険なので、心を鬼にして男の子を起こすことにする。


「…………ねえ、起きて」

「うぅ…………」


 小さな体をそっと揺り動かすと、男の子は僅かに身動ぎしてうっすらと目を開ける。


「あれ? ここは……」


 目をぱちくりと開けた男の子は、むくりと起き上がってキョロキョロと当たりを見渡した後、最後にリリィを見て小首を傾げる。


「あの……お姉ちゃんって……勇者様だよね?」

「う、うん、私のこと、知ってるんだ」

「知ってるよ。だって僕、勇者様に呼ばれて洞窟に入ったんだもん」

「えっ?」

「門番のおっちゃんが、勇者様が手伝ってほしいことがあるっていうから、一緒に洞窟に入ったんだ……あれ? そういやおっちゃん、何処に行ったんだろう? 勇者様、門番のおっちゃん見なかった?」

「えっ? 見なかった……かな?」


 元気よく答える男の子を見ながら、リリィは困ったように笑う。


 どうやらこの男の子は、この村の門番にそそのかされて洞窟の中に入ったようだ。

 村を守る門番がどうしてそんな嘘を吐いたのかはリリィにはわからないし、あの返り討ちにした三人……いや、一人は魔物だったから、二人の男のどちらかが、男の子の話した門番のおっちゃんかどうかもわかららない。


 ただ、なんとなくこれだけは聞いておこうと思ったリリィは、あちこちに視線を彷徨わせている男の子に尋ねる。


「……ねえ、君にとってその門番の人って、大事な人だった?」

「えっ、おっちゃん? まさか、そんなわけないじゃん」


 男の子は顔の前で激しく手を振りながら強く否定の意を示す。


「どっちかっていうとあの門番のおっちゃん、普段から偉そうにママとかに命令するから嫌いだったんだ」

「そうなんだ……でも、そんな嫌いな人の言うこと聞いたんだ?」

「う~ん、そうなんだけどさ。それでおっちゃんの機嫌損ねて、ママに迷惑かかっちゃイヤじゃん? それに、勇者様の頼みなら聞かないといけないと思ってさ」

「そう、偉いね」


 齢、十歳に届くかどうかもわからない幼い子供とは思えない男の子の気遣いに、感嘆したリリィは手を伸ばして彼の頭を優しく撫でる。


「よく頑張ってね。君のお蔭で私、成長できたよ」

「ヘヘッ、そうなんだ。よくわからないけど、お役に立てたならよかったよ」


 リリィに頭を撫でられた男の子は「ヘヘッ」と照れくさそうに笑いながら、鼻の下を指で擦る。

 男の子の笑顔を見て、リリィも釣られるように笑う。


 この笑顔を守ることができて、心からよかったとリリィは思う。


 後はこの子を無事に母親に送り届けることが、勇者としての自分の仕事だ。

 リリィが改めて自分の為すべきことを確認したリリィが立ち上がると、背後から足音が聞こえてくる。


「……待たせたな」

「お兄様!」


 何やら「やることがある」と言って洞窟の広場に残っていたライルが、灯りの魔法を手にやって来る。

 ライルはリリィの後ろに控える男の子を見て、満足そうにしかと頷く。


「ほう、無事に起こせたようだな」

「――ッ!?」


 ライルの姿を見た男の子は、額の傷跡を見て驚いたのか「ヒッ」と悲鳴を上げながら思わずリリィの背中へと隠れる。


「フフッ、大丈夫ですよ」


 怯えて震える男の子に、リリィは膝を付いて幼い体を抱き締めると、心配ないと優しく頭を撫でながら話す。


「あそこにいるのは私のお兄様です。さっきは君を助けてくれたんですよ」

「……本当に?」

「本当ですよ。だからそんなに嫌わないで下さいね?」

「う、うん……」


 リリィに優しく諭された男の子は、彼女に抱かれながらおそるおそるライルと目を合わせる。


「――っ!?」


 だが、それでもやはりライルの顔が怖いのか、男の子はギュッとリリィにしがみついてしまう。


「あらら……すみません。お兄様」

「構わん。子供にそういう態度を取られることには慣れている」


 これまでもリリィ以外の子供には、顔を合わせる度に泣かれてきたライルにとって、男の子のリアクションも実に慣れたものだった。


「それよりだいぶ遅くなってしまったからな。早く外に出るとしよう」

「あっ、わかりました」


 リリィはカンテラを腰にしっかりと括り付けると、しがみついて離れない男の子を抱き抱え、ライルの横に並ぶ。


「そういえばお兄様、奥に残って何をなさっていたのですか?」

「何、村人たちに魔物がいたことを知らせねばと思ってな。魔物の首を回収してきた」


 そう言いながらライルは二つの袋を掲げる。


「他にも何人かの冒険者の死体があったからな。その遺品も回収してきた」

「冒険者……ですか?」

「覚えていないか? 郵便屋が冒険者の失踪事件が発生していると話していただろう?」

「はい、覚えていますが。まさか……」


 この村の人間が事件に関与していると思ったのか、リリィの顔色が悪くなる。


「いや、まだそうと決まったわけではない」


 結論を急ぐリリィに、ライルはかぶりを振って否定する。

 実際は村長をはじめ、幾人かが事件に関与していることを知っているライルであったが、敢えて知らない振りをして話す。


「ただ、村長を問い質す必要はありそうだな。この洞窟の存在についてもな」

「その時は、私もお供しますね」

「…………ああ、そうだな」


 張り切るリリィに、ライルは言葉を濁しながら視線を逸らす。

 珍しく態度をはっきりさせないライルに、リリィは不思議そうに首を傾げる。


「……お兄様?」

「いや、何でもない。それより急ぐぞ。早くしないと日が暮れてしまうからな」


 ライルは話を打ち切るように背を向けると、一人、洞窟の出口目指して早足で歩き出した。

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