暗躍、そして暗躍
「さて、追いかけっこは終わりじゃ」
「いやっ! 放して! はなしてよおおおおぉ!!」
逃げようとするティッキーを捕まえ、組み伏せた村長は再び彼女へと襲いかかろうとする。
だが、
「村長!」
そこへ秘密の部屋の入口の扉が開き、三つの影が慌てた様子で飛び込んでくる。
「村長、問題が発生しました」
「なんじゃ、せっかくこれからというところなのじゃぞ」
「そ、それはすみません。ですが、少し知恵をいただきたく……」
「全く、仕方ないのう」
せっかくの愉しみを邪魔された村長だが、あっさりとティッキーを解放すると、身支度を整えて男たちへと向き直る。
「それで、随分と遅かったようじゃが、何かあったのか?」
「遅い? いえ、これでもかなり急いだつもりですが……」
「言い訳は無用じゃ。問題というのは例の勇者たちのことじゃな?」
「は、はい、そうです……」
村長の問いに男は首肯すると、自分たちが体験した事象について報告する。
男たちから報告を聞いた村長は、鼻を「フン」と鳴らしながら不満そうに口を開く。
「つまり、臆病風に吹かれておめおめと失敗の報告にやって来たわけじゃな」
「そうは言いますが、一瞬にして我々三人を村の外へと追いやる魔法を操るのですよ? これが警告だとすれば、次に我々が物言わぬ肉塊に変えられる可能性だって大いにあると思いませんか? この魔法があの兄の方が仕掛けたとしたら、十分に考えられます」
「むうぅ……た、確かにあの男ならやりかねんな」
「そうです。転移魔法を使えるような魔法使い相手なら、我々を一瞬にして消し炭にするのも容易いはずです」
「た、確かに下手すれば、この村ごと消し炭にされかねんな……というより、あの男なら間違いなくやるだろう」
額に大きな傷痕のあるライルの顔を思い出した村長は、彼に睨まれた恐怖を思い出し、思わず身震いをする。
「じゃ、じゃが……」
何かを思い出したのか、村長は恐怖を振り払うように大きくかぶりを振ると、切羽詰まった様子で話す。
「連中が本物の勇者なら、是が非でもこの村から出すわけにはいかんのだぞ? もし、このまま見逃せば、儂等はあのお方に……」
「で、ではどうするというのですか?」
「むむむ……」
男たちの切羽詰まった様子に、村長は渋面をつくりながら腕を組んでどうしたものかと考える。
勇者の実力は未知数だが、付き添いの兄は見るからに熟練の猛者だということがわかる。
額に付いた怪我が何よりの証……あれだけの怪我を負うほどの修羅場をくぐり抜けた者を相手に、素人に毛が生えた程度の自分たちでは到底敵うはずがない。
だから、自分たちがあの者たちに勝る方法があるとすれば、真っ当でない方法しかないと村長は考えていた。
「うむむ……」
どうにかして安全に勇者たちを始末する方法を、村長は「ああでもない、こうでもない」と唸りながら考える。
「クッ……あの男さえいなければ…………ほれ、お前たちも知恵を出さんか!」
「は、はい……」
「わかりました」
だが、ライルの存在がどうしてもネックになるのか、村長は禿頭をペシペシ叩きながら、男たちにも考えるように指示を出す。
「村長……」
すると、一人の男が何かを思いついたかのように手を上げる。
「そういえば、村の近くに昔、魔物が大量発生した洞窟がありましたよね?」
「あ、ああ……あったが、それがどうかしたのか?」
「ええ、つまりですね……」
そうして男は、自身が思いついた作戦を村長たちに話していった。
秘密の部屋で行われている村長たちの密談を、他の者が知る術などない……そう思われたが、実はこの秘密の部屋にはもう一人、誰にも気付かれないで佇んでいる者がいた。
(……どうやら連中は、思った以上のクズの集まりだったな)
自身のオリジナル魔法、僕だけがいない土地で姿を消しているライルは、村長たちを遠巻きに見ながらニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。
ここにライルがいる理由は、部屋の侵入を試みようとした三人の後を尾けてきたからだ。
三人の男たちはライルの転移魔法で村の入口に飛ばされたと思っているが、実際は転移魔法ではなく、ドアノブに触れた時点でかかった催眠魔法によって、自ら村の外まで歩いていったのだった。
だから村長と男たちの間で時間に齟齬が生じており、本来は閉まっているはずの村の入口の鍵が開いていたのであった。
実はたいしたことはしていないのだが、強面のライルという存在を恐れるばかり、村長たちが過大評価してしまっているのも、彼にとっては好都合だった。
(村の様子から何かしらの裏があると思っていたが、どうやら連中は、訪れた冒険者たちを歓待すると思わせて、実際は連中を殺してその身ぐるみを剥いでいたのだな)
村長たちの話から大まかな状況を理解したライルは、呆れたように肩を竦める。
こんな立派な石の街道を設置しているような村の中で、こんな盗賊紛いのような出来事が日常的に行われているとは、殆どの者は夢にも思わないだろう。
(……だが、そんなことを続けて周りの者から不審に思われないのだろうか?)
この村に来る前、郵便屋がこの辺りで冒険者たちが消えているという話をしていた。
少なくともこの辺の住民は近辺で冒険者が消えていることを知っているはずだし、気前がいいという領主にまで話がいっていてもおかしくはない。
それでも、今日まで何一つお咎めがないというのは、何かしら別の理由があるのかもしれない。
(まさか、件の領主までグルという可能性もあるかもしれぬが……まあ、関係あるまい)
例え、領主が村の連中と結託していたとしても、リリィの成長の妨げとなるなら、容赦なく叩き潰すまでだった。
(ククク……貴様らの命も明日までだ。精々今のうちに足掻くがいいさ)
村長たちの作戦を一通り聞いたライルは、これ以上は興味ないと踵を返すと、拘束されているティッキーたちには目もくれずに地下にある秘密の部屋を後にした。




