スライムになった私(2)
ブヨん、ブヨん――
(なんか、想像以上に大きくなっちゃったけど……)
どんどん雨が強くなる中、近くの水溜まりもろとも吸収しながら進んだ私は、通せん坊を出来るほどの大きさまで膨れ上がっていた。
(この大きさなら道を塞いで、逃げ道をふさげるよね)
プシュゥゥっと口から水を出し、先に進めるが通せん坊はしっかり出来る絶妙な大きさに調整し、ヌルヌルと先に進む。
(なんか私、スライムの体に慣れてきたかも……)
水の吸収と放出を自分の意思で出来るようになってきた辺りで薄々気づいてはいたが、移動も思った通りに出来るようになったりと、体がスライムに順応してきている事が目に見えて理解出来た。
(この姿で探すのはいいけど……。どうか誰にも見つかりませんように……)
雨、暗闇、人通りの少ない場所というコンボのお陰で、ここまで誰にも見られずに来れたが、いつ大きくなった私を見つけられてもおかしくない。
(ゆーくんと会えればそれでいい、その後見つかったって別に大丈夫……)
たとえ今見付かっても騒ぎ立てられるだけ、捕まえるどうこう騒いでいるその隙に逃げて、捕まる前に彼と話せばいい。
最悪水を一気に放出して逃げてやると腹を括った私は、水量の調節を繰り返しながら右左折を繰り返す――
そして――
見つけた。
(ゆーくん……?)
喜びより私の脳裏には絶望が浮かび上がった。
こんな姿を探していた訳じゃ……ない。
(あんなに……ボロボロに……)
その姿はまるで生き果てた苦労者の様だった。
グシャリとだらしなく倒れ、息をしているのかすら心配になる泥だらけの姿。
(ゆーくん……ごめん、ごめんなさい……私が悪い、私が全部――!)
知らぬ間に目から水を溢れさせた私は、比例して縮む体に焦るように目を瞑る。
(泣いちゃダメ! 逃げないで私! 今からでも直ぐに助けて――)
目を逸らしちゃ行けない! と、意を決して自分の姿など気にせず飛び出そうとした時、
彼はもう立ち上がっていた――
「俺は……お前がいないと……ダメなんだ……」
ギリギリと歯を鳴らし、震える足で立つ彼を見た時、私は彼の愛が私の器では受け止めれないことに気づいてしまった。
(本当に……)
零れる。
私がスライムになったことを知らないで私が死んでも、それでも諦めずに探してくれる、そんな事、ただの理想だった。
心のどこかでそんなこと有り得ないと思っていた自分がいた。
それなのに。
彼は立ち上がり、探し続けている。
(そんなの……そんなの零れちゃうよぉぉぉっ!!)
私には不釣り合いな程の愛に、ただただ涙しか流せなかった。
体が縮む。止められない。
零れる涙が――
零れる彼からの愛が――
涙を止めなきゃ。
私の身に有り余る愛を受け止めたい。全部全部受け止めたい!!!
彼はきっと、本当に私がこのまま誰にも理解されないまま死んだら、探し続けてくれる。
妄想、理想、幻想のはずだった。
愛。
私達には深い愛がある。
それでもこんなイレギュラーな状態じゃ……愛は破綻する。そう思っていた。
それなのに、
彼は立ち上がる。
きっと私が見ていないだけで何度何度も転んで、その度に己を鼓舞して立ち上がったのだろう。
(ゆーくん……。ゆーくん、私も……頑張るからね――)
この後どんなに理解されず、私がスライムになったことに気付いてくれなくても、何度でも諦めない。私は絶対に、彼の愛を全て受け止める程の器になるんだ。
今度こそ零れさせないように――
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