スライムになった私(1)
ここから智夏パートに入りますが少し大事な場面でもあるので、数回に分けさせてください!
雨が降りしきる――
(私はこれからどうしたらいいのだろう……)
最愛の彼は私を見た後、私を探しにどこかへ行ってしまった。
私は一体どこにいるのだろう。私は一体何者なのだろう。
そんな疑問だけが浮かぶ世界で私は小さな体を動かした。
(寒さも感じない、地べたを歩いても痛くない……けど)
隣に誰もいない寒さ、彼に自分を失わせてしまった心の傷の痛みは、どんな物より辛かった。
(私はどこへ行けばいいの?)
本当の孤独を味わいながらヌルりヌルりと移動して、ふと気づく。
水溜まりに映る自分の姿が人間のそれを本当に超えてしまっていることに。
(何……これ……)
昔、彼が貸してくれた漫画の中に自分の今の姿に似た生物がいた。
スライム――
ゲームやアニメに疎い私が初めて覚えたモンスターだった。
(私が……モンスターに……?)
雨により何度も何度も波紋を広げる水溜まりは、私の心と同じように揺らぎ続ける。
私はスライム。あっという間に倒されるいるのにいない存在、スライム。それはまるで今の私と彼のよう。いるのに、目の前にいるのにいないものと扱われる。
(それだけは……やだな……)
別に全ての人に私を認知なんかしてもらわなくていい。ただ、ただ一番この世で愛している彼だけには……。
(知ってて欲しいな……)
たとえその後私が死んでもいい、気付いてくれればそれでいい。彼の心のほんの僅かな隙間に入れれば私は満足してこの世から居なくなれる。
それに……彼は優しいから、
(きっと私が死んだことも知らずに探し続けるよね……)
他者が聞いたら自惚れるなと言われるかもしれない、それでも私は彼を信じてしまう。何処までも何処までも……。
(探さなきゃ)
止まってられない。彼は今も私を探しているかもしれない。大丈夫、きっと分かってくれる。だって彼と私は心で繋がっているのだから――
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それからしばらくして、私はまた重要なことに気づいてしまった。
(私はスライム。倒される存在のスライム……)
言葉が話せないという問題だけだと思っていたが、そもそも話し合う土俵にすら立てていない。
(どうしよう……)
今彼がスライムの私を見たら即座に逃げるだろう。
見た目はよくガリガリだとバカにされる彼だが、私だけは知っている。彼の異常なまでの反射神経とその足の速さを。
(うん。追いかけても絶対逃げられる……)
かつて武道を習っていた彼が手にした力は敏捷性。体重も軽く、パワーには欠けるが、その素早さだけはそこらの人には絶対負けない。
(普通じゃダメ……何か……何か考えないと)
今の私なら何が出来るの……。とひたすら水溜まりに映る自分と睨めっこをする。
(見れば見るほどまん丸スライム……。こんなんじゃやっぱり、って…………あれ?)
ツルんとした姿をぼーっと見ているうちに、水溜まりが少し小さくなったことに気づいた。
雨が降る中、水溜まりが小さくなるなんてありえない、むしろ成長していいはずだ。
そんな疑問と共に空を見上げた私は言葉を失った――
(私が……私自身が大きくなってる?)
水溜まりが小さくなった訳じゃなく、自分の体積が大きくなったことに気づいた頃には、最初の体のふた周り程大きくなり、五十センチ位の高さになっていた。
(時間の経過で大きく……いや)
雨を吸収した?
そう結論づけた私は空を見つめ、これなら……。と止まることなく再び歩みを進めた――
お読み下さりありがとうございますー!!
( ˘꒳˘)