意思と石
「はぁ……はぁ…………」
かれこれ三時間、俺は走り続けた。体力の限界なんて無視して、ただひたすらに走り続けた――
「どこ行ったんだよ、智夏……」
雨が服の質量を倍増させ、緊張と不安が体を重くさせる。
「う、く……そ…………」
とっくのとうに悲鳴をあげていた俺の体は流れるように重量に従い、ドシャッと水溜まりに倒れる。
「立て、立て……」
もがくように泥水を啜った俺は、拳に力を込めながら何度も地面を殴る。
「……まだだ、まだ……探さないと、ダメなんだ……何として……でも!」
ギリギリと歯に力を入れながら、ゆらりと立ち上がった俺は、丁度十字路になっている所まで感覚の無くなった足を無理やり引きずる。
「俺は……お前がいないと……ダメなんだ…………」
ふらりと急に手放しそうになる意識を強引に覚醒させながら、俺はゆっくりと曲がり角を曲がろうと足を向け、
言葉を失った――
「……なんなんだよお前、その姿――」
ブヨん、ブヨん。と鈍い音を鳴らしながら近づいてくるのは、俺と同じ大きさまで成長した白いスライム。そいつは俺の通せんぼをせんとばかりにその体躯で道を塞ぐ。
「……邪魔だ……どけろ」
ジリジリと今も近づいてくるスライムを睨み付けながら、腰を深く下げる。
「ブヨんブヨん、ブヨん!」
口を何度も開け閉めするスライムに苛立った俺は、後ろ足に力を込め、鉄の足を無理やり動かし加速した。
「何言ってるか分かんねぇんだよ……このクソデカブツッ!!」
右脚による加速と共にステップを踏んだ俺は、重心を下げ、渾身の回し蹴りを中枢部へお見舞する。
が、
「ブヨんっ!」
「くっ――!」
その見た目の通り弾力性のある体は俺の足を搦め取り、攻撃を食らうどころか無効化した。
「くっそ、離せっ!」
左脚を搦め取られ、身動きの取れなくなった俺は底なし沼で暴れるかのように体を振るが、ヌメリ、と徐々に体が侵食される。
「ブヨんブヨんブヨんブヨんっ!」
何故か焦る用にスライムもまた暴れるが、その度に俺の体はズブズブと中へ入っていく。
「や、べぇ……」
あっという間に胸元まで侵食したスライムを見ながら俺は背中を泡立て、最後の手段だとばかりスライムに齧り付こうと口を開け、あるものを見て、止めた。
「……………………俺も、す――」
直後。
ゴボボボボボボと全身をスライムの中に取り込まれた俺は、意識半分で薄目を開け、笑った。
お前が智夏なのか、それともお前が智夏を食べたのか……。分からない。それでもこれだけは分かる、もう会える――
俺が見たもの、それはスライムの中心部、バラバラの大きさの石で形成された幼稚園児の用な汚い文字。
ほんっと、何処までも最高で何処までも自慢の彼女だよ――
その文字を再度見た俺は安心したように目を瞑り、ゆっくりと意識を手放した――
【だいすき】
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