空白の距離
ぷよん――
体が、軽い? うんん、滑る。
目を開けるとそこは、見慣れた世界ではなく、見たことも無い世界だった。
それでも何故か、不思議と違和感はない――
(私……どうなって……)
深呼吸深呼吸……。と、冷静になりながら、先程まで優と手を繋いでいた所まで思い出し、反射的にゆーくん! と声を上げ、気付く。
(私……小さくなってるの?)
見慣れていないはずなのに、何処か見慣れている理由、それは世界自体が変わった訳ではなく、自分の視野が変わったことによる誤差のせいだと理解する。
少し下を向けば縁石があり、道に落ちている小石が大きく見える。
(ゆーくん! ゆーくん!)
声を何度あげても響かない、声が出ない。声の出し方を忘れたかのように口をパクパクして、無常にもそれで終わる。
(何これ……声が!)
それを何度か繰り返した後、智夏は巨大な靴の前で飛び跳ねた。
(これゆーくんのだ!)
見慣れた黒い靴に問いかけるように跳ねるが、次の瞬間、その黒い靴は一瞬にして遠くへと距離を取った。
「んだよこれ……なんだよこれ!」
そんな優の焦った声と共に、智夏は自分との心の距離を感じてしまう。
(……私、もうゆーくんとお喋りも、手を繋ぐことも、抱き締めることも……出来なくなっちゃったのかな……)
自分の異変を全て理解したわけじゃない。それでも彼は、私を見て飛び退いた。
理屈は知らない、なんでこんな事になったのかも知らない……。ただ分かるのは、
(私……また1人になっちゃった)
苦い現実だけだった――
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「あれ……!」
――魔王城
漆黒のローブに身を包んだ魔王は、派手な宝石で彩られた椅子から勢いよく立ち上がる。
「どうかされましたか?」
隣でそれを見守るのは魔王のお世話係兼四天王の一人、サディスだ。
「いや、何でもない……」
「…………」
漆黒のローブのせいで表情こそ分からないが、声色から焦りがビシビシと伝わる。
それをすぐさま察知したサディスは、はぁと小さくため息をつき、毎日手入れを欠かしていないタキシードの襟に両手をあて、ピチッとさせた後、魔王の目の前まで歩みを進める。
「魔王様……しっかりと仰ってください。失敗を」
「ぐっ……! し、失敗なんてしてないぞ! この魔王である私が……!」
「魔王様?」
ローブをバサバサと羽ばたかせる魔王は、観念したように動きを止め、サディスから体を逸らしながら鼻を鳴らす。
「……ふっふ! 試したのだサディスをな! よくぞ見破った! そう! 間違えて! 知らない子をモンスターに変えてしまった……! しかもスライムに……!」
「……」
「いや、もう四天王を辞めようかなみたいな顔をするでないっ! 大丈夫大丈夫! 無かったことにするから!」
「あの、魔王様……焦りすぎて音声補正安定してないですよ?」
「はふ!?」
黒いローブの中でキャイキャイ騒ぐロリボの魔王は、その後サディスにきっちりしごかれた――
お読み下さりありがとうございますー!フンス( ´ ꒳ ` )=3
改善などもしていきたいと思っているので宜しければ感想などお願い致します!m(*_ _)m