犯罪者二人
「それの何処が、素晴らしいんだー!」
詰め所全体に、少女の叫びが響いたのだった。
叫びを間近で聞いた門兵は、耳がキーンとして、しばらく硬直していたが、やがて硬直が解けたと同時に怒りが爆発した。
「うるせぇー!」
叫びと、仮面の少女の頭にチョップを食らわせた。
ドン!
とっても痛そうな音がなった。
「うがーー!痛いぞー!痛い!痛!アァー!」
チョップを食らった部分を両手で押さえながら、床を縦横無尽に転がり回る。
その様子を言うのなら、
ソファーの上で倒れた少女が、痛みに耐えられずに床へ落ちて転がり始めた。
転がり始めて、ぶつかる壁の名は、テーブル。
あわやぶつかる!となる瞬間。
なんと、転がりながら見事なジャンプを魅せたのだ!
そのジャンプを分かりやすく言うと、
転がりながら、背中が床についた瞬間、床に思いっきり背中を打ち付け、ジャンプをしてテーブルを越えたのだった。
まるで、魚が水面から飛び出した時のような。
しかし、そこに最大の壁があった。
「はっ?」
門兵である。
門兵もまた、突然出てきた仮面の少女に驚いており、捕まえることも逃げることも出来ずぶつかったのだった。
車が正面衝突をするかのように。
ドンッ!
結果は、仮面の少女は止まり、門兵はビクともしていなかった。
「いたー!」
「はぁー、驚いた」
しかし、それだけでは終わらなかった。
「うがーー!」
さらなる痛みに、仮面の少女が暴走を始めたからだ。
部屋のあちこちを無茶な曲がり方とジャンプをしながら転がり続ける。
鎧は容易くジャンプをして乗り越え
棚から落ちてきた物は、無理矢理曲がって回避し
暴走を続けた結果、倒れてきた武器や防具を、時に避け、時にジャンプしてかわしした。
そんなことをやっている間に、転がりのスピードは恐ろしく早くなり、壁や天井を転がり始めた。
その様子を暫く呆けて見ていたが、部屋の中がぐちゃぐちゃになっていることに気付き、門兵は頬をピクピクさせて叫んだ。
「そろそろ落ち着け!」
しかし、一向に止まる事が無く。
門兵は痺れを切らし、近付いてきた所を捕まることにした。
そして、その瞬間が訪れた。
此方に向かってくる仮面の少女を見て、門兵は笑顔になって言った。
「そうだ、そうだよ。此方に来い」
穏やかな口調で言いながら、手招きをし、仮面の少女が近付くのを待っていた。
そしてとうとう、仮面の少女が、手の届く距離に近付いた。
これなら確実に捕まえられる、と確信した門兵は、手を素早く伸ばして捕まえようとした時、
ドン! スカッ
二つの音が聞こえた気がした。
一つは、仮面の少女が、ジャンプした時の音。
もう一つが、門兵の手が、空振りだった音。
だが、その音は門兵にしか聞こえなかった。
仮面の少女は、手を伸ばす為に、少し前屈みになっていた上を通り越して突破した。
「はっ?」
またも、呆けた声を出すが、すぐに戻って来た。
そして、心に炎が灯った。
「ふふふ、いいじゃねぇーか。この俺を本気にさせた事を後悔させてやる」
その言葉で試合のゴングがなった。
もちろん幻聴である。
それからは、部屋が無茶苦茶になる事を厭わずに追いかけ回した。
しかし、一向に捕まえることは出来ず。
それがさらに、門兵の心の炎を燃え上がらせた。
さらに、スピードアップをして、後少しで捕まえそうな時に、何者かの叫びが響いた。
「先輩!うるせいですよ!!」
その者は、叫んだ後に、部屋の惨状を見て、顔が青白になった。
その者を見た門兵は、先程まで燃えていた心の炎が一気に鎮静化された。
仮面の少女も、声の大きさに驚いて止まった。
そして、部屋の惨状を思いだし、一気に顔が青白くなって行くのが感じられた。
「なんで先輩は、少女の事情調査を聞いていた筈なのに、こんな惨状になっているんですか?」
門兵は、後輩の言葉に冷や汗をかきながら弁明をした。
「あ~、それはだな、後輩……」
「まさか!先輩、少女に!」
後輩門兵は、何を想像したのか、顔を赤くさせていた。
「はぁ?!何を考えているだ!」
「先輩、僕は嘘は駄目だと思うんです」
真剣な瞳で、先輩門兵の間違いを正そうとする覚悟が窺えた。
「だから、先輩!自首しましょう!」
「何を言ってるんだ!俺はそんな事してない!」
後輩門兵は、この頑固者な先輩門兵に、何を言っても無駄だと思い、覚悟を決めた。
「はぁ、分かりました!僕も罪を一緒に背負います!」
「だから、違うといってるだろう!覚悟なんてしなくていいからな!」
先輩門兵も、後輩の勘違いを正したかった。
しかし、何を言っても、頑固者な後輩門兵には無断だろうと思った。
「何を言ってるんですか!二人なら自首しやすいんですよ!だから僕は先輩の為なら、罪を背負います!」
コソコソコソコソ
「だから!……うん?待て後輩。今音がしなかったか?」
先輩門兵の言葉に、見回した。
そしたら、逃げ出そうとしていたのか、起き上がっていた仮面の少女を発見した。
「先輩!少女が逃げ出そうとしてます!」
後輩門兵の言葉に、仮面の少女は冷や汗を掻き始めていた。
「何?!」
後ろを、振り向いて確認すると、少女は逃げ出そうとしていた。
「確かに、逃げ出そうとしてるな。どうするか……」
悩んでいた時だった、後輩門兵から提案が出たのわ。
「そうだ!先輩!」
「なんだ、後輩?」
「部屋を片付けるのはどうですか?」
後輩門兵の言葉に、「いきなり何を言ってるんだ」と聞き返したら、
「掃除をしている間、少女には目的の部屋に居てもらうのです!」
「うーん、何を言ってるんだ?」
「あれ?伝わりませんか?」
「伝わらない」
「うーんっと、部屋が散らかっていたら怒られる。かと言って、掃除をしようとしたら、少女が逃げ出す。だったら、目的の部屋に連れて行き、そこにある牢屋に一時的に入れておくんです。伝わりましたか?」
この後輩、意外に鬼畜?っと思ったが、その案は良いものだったので乗ることにした。
「よし!その案で行くぞ!」
「はい!」
仮面の少女は黙っていたが、話の雲行きが悪くなったのを感じ取って、逃げ出そうとした。
しかし、もう遅かった。
「逃がさねぇぞ」
「逃がしません!」
二人の声が聞こえたと同時に、両肩を捕まえられて、持ち上げられた。
仮面の少女は、二人の門兵を悪魔だと思っていた。
分かるだろう!いたいけな少女を捕まえる、屈強な門兵。
そんな少女の視点になってみろ!怖がってしまって何が悪い!
「き、貴様ら!こんないたいけな少女を捕まえて何をするつもりだ!」
誤解を招く発言を聞いた門兵二人は、それでも動揺しなかった。
「逃げ出そうとしたから、仕方ない」
「あぁ、後輩の言う通りだ。だから、諦めろ」
動揺もせずに言い切った、彼等を見て、仮面の少女は、最終手段に出ることにした。
「ふふふ、後悔しても知らんぞ?」
「嬢ちゃんは何を言ってるんだ?」
「分からないです」
門兵二人は、意味が分からないと首を傾げた。
それも同じ方向に首を傾げた。
「ハハハ、俺様を侮辱した事を一生後悔するんだな!すぅーー……!誰か助けてーーー!!屈強な人達に脅されて怖いよーーー!!!」
そして、仮面の少女は大声を上げて、助けを求めたのだった。
「「はっ?!何を言ってるんだ!」」
見事にシンクロした二人だったが、仮面の少女を止めないと犯罪者に仕立てられると気が付いて、取り合えず、気絶させる事にした。
トン!
「どうしますか、先輩?」
「うーん、目的の部屋に行くぞ」
難しい顔で考えていた先輩門兵は、目的の部屋に運ぶことにした。
「分かりました!」
後輩門兵も、目的の部屋に行くのは反対ではなかったので、賛成した
「よし、そうと決まれば運び出すぞ」
「はい!」
そうして、二人は役割を分けて、取り掛かった。
一人は、人が居ないかの確認
もう一人は、仮面の少女を運ぶ役割
端から見ると、誘拐犯にしか見えなかった。
「よし!今なら誰も居ないぞ」
「軽!それに柔らかい。これが少女の肌か……」
「おい!何をしている!さっさと行くぞ」
「は、はい!」
先輩門兵の後に、続いて出た時、向こうから金属の擦れる音が聞こえた。
ガシャガシャ
ガシャガシャ
ガシャガシャ
その音を聞いて、二人は慌てて目的の部屋に向かうのだった。
この前、あらすじと小説の名前変えようとしたのですが、面倒になって諦めたので当分変えないと思います。
気がついたら、今日で投稿を初めて一ヶ月が経つんですね。




