新たなる教育
「シラさん。良い事を考えましたね!」
ミリカは今、覗き魔が必死に走って逃げている姿をお店からチラリと見ていた。
「前に、彼女達が可愛いがいのありそうな男を見つけられないそうで困っていましたので、その助けになればと思っただけです」
シラもミリカが見ている方向を見ながらそう話す。
「でも、お陰で覗き見をしようとは思わなくなりますね!」
覗き魔をする者を一人減らせた事が嬉しいのだろう。ミリカは見惚れそうな程に良い笑顔だった。
「そうですね。そうなると良いのですが……」
シラはミリカの言葉に頷きたかったがあの犯罪歴を見た後だと到底諦めるとは思えず、あやふやな返事になってしまう。
「諦めなかった場合は……どうしよう?」
何かを言いかけたミリカだったが、ふと、我に戻ってしまいその肝心の言いたいことが思い出せず首を傾げる。
「諦めなかった場合は兵舎に突き出しますので、当分の間は彼は出てこれなくなりますので安心ですよ」
あの回数を伝えれば覗き魔は何年間は牢屋の中で過ごすと考えたシラはそう話す。
「そう、ですね……」
ミリカはシラの言葉に頷きたかったが、過去の覗きを働いた人物の中に牢屋からあっさりと出てきた人がいたので、苦い表情になりながらも希望的に返事を返した。
「それよりも、ミリカさん。見ているばかりで手が動いていませんよ」
シラはチラリとミリカを見てそう指摘する。
「あっ!すみません!」
指摘されたミリカはそれに気づいて慌てて謝った後、忙しなく手を動かし始めた。
「慌て過ぎです。ゆっくりにとは言いませんが、丁寧に、確認を怠らないようにしてください」
「は、はい!」
ミリカは自分が焦っていたと気付かされ、今度は丁寧に確認を怠らないように気を付けながら紙に書いて行く。
「上手く出来てます。このまま頑張ってください」
「はい!」
褒められた事でミリカのやる気はさらに上り、集中力も上がり、紙に書く早さも上がった結果、どんどん左側に置かれた紙が消えて行き、右側に積み重なって行く。
「凄いですね。簡単な数字の計算だけですが、あの早さを維持しながら終わらせられるのは新人とは思えません」
ミリカの書く早さにシラは感心する。しかし、ここでミリカにとっての悲報が訪れる。それは、シラが新たなる教育を思い付いてしまったのだ。
「文字を教えればどれだけの成長が見込めますか……」
シラは成長度合いを頭を全力で働かせる事で予測を立てて行く。その予測した結果を見て、シラは無意識に笑みを浮かべてしまう。
「これは、楽しみな結果になりました。明日からはこれを主にして組みましょう」
ミリカの明日はゲームの中で授業と言う苦しみが襲うのが確定された。この未来は変わる事はない。
「っ!!」
急に寒気を感じたミリカは書く手を止めて辺りを見回す。しかし、寒気を感じる様な物が見つからず、ただ未だに感じる寒気だけが残っている状況にミリカは恐怖を感じた。
「ミリカさん。何を見回しているのですか?」
「い、いえ!何でもありません!」
寒気の正体が気になるミリカだが、このままだとシラに別の厳しい事をされそうだと思って寒気については忘れる事にして、書くのに戻って行く。
「それなら良いのですが……何かあったら報告してください」
「はい!」
明らかに嘘を言ってるのは気づいてるシラだが、そこには触れずに困った事があれば報告して、とだけ伝えてシラも別の事をするのだった。
なんと良い教育係だろう。しかし、ミリカが探している寒気の正体はシラだ。それに気づくことも、また、原因である事も二人は気づかないだろう。
ミリカにとっての明日とは、学校帰りの明日です。授業が終わったとホッと安堵しながら家に帰り、ゲームをやるとまた別の授業が待っていると言う。勉強大好きな人以外では中々に辛いことが待っている。




