おまけ話 覗き魔の今日の一冊
思い通りに行かないのはいつも通り。
甘く芳しい匂いが漂う空間。それは私の脳を蕩けさせるかのようだ。すると突然、隣からスーーっと布が肌の上を滑る様な音が聞こえたのだ。その音が気になった私はチラリと隣を見ると、そこには小柄で可愛らしい少女が靴下を脱いでいる姿があった。その神々しいとも艶めかしいとも言えるような靴下を脱ぐ姿は私を魅了する。しかし、その手が止まってしまった。少女は靴下から手を離して私に振り返ったからだ。その顔を見た私は思わず意識が飛びそうになってしまう。それほどまでに少女は美しいのだ。あどけなさの残る顔……しかし、その身から放たれる妖艶な雰囲気が相まって少女は女神と言われても可笑しく無い程の美女へと格上げさせる。女神の様な少女の柔らかそうな口が小さく開く、その口からチラリと見える赤い舌がなんともまた艶めかしいのだろう。
「どうしたんですか?」
見惚れていた私を不思議に思ったのだろう、少女は小首を傾げて私にそう問い掛けて来るが、今の私にはそんな事に気づける余裕は無い。何故なら、小首を傾げると言う行為だけでも可愛らしいと言うのにそれを更に高まらせるかの様に、上目遣いで私を見詰めて来るのだ。その姿は堪らなく私の胸を高鳴らせる。
「いえ、何でもありませんよ」
しかし、私は紳士である。行為が始まるまではそんな欲は表には出さない。たとえ、少女にバレていたとしても……
「そうですか。でも、倒れられては困ります」
少女は私の言葉に騙されてくれず、尚も心配そうな瞳でそう言ってくれる。そのなんとも胸を掴まれる様な言葉を言われたら私は少女の事が好きになってしまう。それが駄目だと分かりながらも、この気持ちは押さえられない。
「私は貴女が好きです。付き合ってください」
気がついたら私は感情に身を任せるままに少女に告白をしてしまっていた。これは叶わぬ恋だと知りながらも、それでも止まらない愛の気持ちに私は身を任せたのだ。ならば、それを最後までやりきる責任が私にはある……フラれるとしても。私は覚悟を決めて少女の瞳を見詰める。少女は私の突然の告白に顔を真っ赤に染めてモジモジとしており、瞳は行場の無いかの様に宙を彷徨う。それを見た私の中に恋が成熟するのではないかと言う淡い希望が生まれた。しかし、現実とはそう上手くは行かないものだ。少女は暫くの間、彷徨わせていたが気持ちが纏まったのだろう、私の目を見返して来る。
「告白は嬉しいですが、私は貴方とは付き合えません」
「はは。そうですよね」
分かっていたが、やはり好きになった人からフラれるのは心が苦しいものだ。私は苦しいのだろう、自然と目から涙が溢れて来る。今の私にとって世界は色褪せて見え、現実感は無く、胸にはポッカリと穴が空き、見える光景全てがまるで他人事の様に見えてしまう。心が叫ぶ、嫌だ!認めたく無い!と……しかし、もう終わってしまった。淡い初恋は今日で終わりだ。明日からは対等の商売人としてやって行く。だが、今だけは少女と居たく無い。
「明日からは対等な商売人として合いましょう」
「ええ。よろしくね」
私と少女はそう言って互いに握手をする。これが初恋の終わる瞬間か……綺麗に感じていた筈の少女に魅力を感じず、ただの商売人としてしか見れない。これからは会う機会も減るだろう。ならば、この機会に沢山見ておきたいと思っていたのだが、この有り様では無理だな。今日の事は良い思い出のままにしておきたいのだ。こんな虚しい気持ちしか無い記憶にしたく無い。
「私はこれにて御暇させてもらいます」
「え、ええ……気を付けて帰ってね」
私が帰ると言った時の少女の表情がとても寂しそうに見えたのはきっと気のせいだ。だから、私の気持ちよ。期待するな……
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彼は行ってしまった。私は彼が居なくなった扉を見詰めながら後悔に襲われる。なんであの時、頷かなかったのかと……
「うぅ、ううぅ~~~!!」
好きだって言いたかった!でも素直になれなかった私は彼の告白を断ってしまったのだ!もう、後戻りは出来ない。私の初恋も終わったの!!
「うわぁ……ああぁあああああ!!」
私は産まれて初めてかも知れない程、泣いた。心に空いた穴を埋めるかのように……
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二人の道は違えた。永遠に結ばれる事は無いだろう。この結末に納得が行かない者も居るだろう。しかし、これもまた結末だ。付き合った未来もあれば、今回のように付き合えない未来もある。様々な結末の一つがこの話にすぎない。納得が行かないと言うのであれば、君だけの結末を書いて見せろ。
著作 エルキー・サイサ
ただの覗き魔では無いと言う証明。覗き魔の話は一定の需要がある。主に体験談等を元にして書くが、今回は何故か上手くいかなかったらしい。
覗き魔「何故だろう?いつもの様にエロい話を書いていた筈が、悲恋になっているんだろう?」




