大袈裟
「スンスン。そろそろかな?」
先輩はいきなり鼻をヒクヒクさせて、食堂に漂う臭いを嗅ぎ始め、首を傾げてそう呟く。
「何がですか?」
その呟きを聞いたミリカは、首を傾げて聞き返す。
「何って……あっ!後輩は今日が始めてなんだっけ?」
「それがどうしたんですか?」
質問の意図が分からず、不思議そうに聞き返した。
「それなら知らなくて仕方ないよね」
ミリカの返答に、先輩一人だけが納得がいったようにウンと頷く。
「むっ……もしかして、料理の匂いと関係ありますか?」
一人納得してる先輩に、小さく頬を膨らませて唸り、「何かを自分も絶対に見つけてやる!」と心の中で叫び、頭を捻って考えて辿り着いた答えを先輩に聞いた。
「そうだよ。この匂いが漂い始めたってことは、料理がそろそろ出来るってことなの」
「それがどうしたんですか?」
当たり前の事を言う先輩に、「何を言ってるんだろう?」と言う表情をしながら首を傾げる。
「後輩、この仕事の利点は知っている?」
「接客の練習になることですか?」
先輩は答えは言わずに、質問を重ねて来たので、ミリカは女将に説明された時に言われた利点を答えた。
「えっ、接客の練習?」
先輩はミリカの答えにビックリした表情で聞き返す。
「はい、仕事の説明をされた時に、女将さんが話していましたよ?」
ミリカはミリカで、「働く事になった時に説明されてるんじゃないの?」と表情で語りながらも、先輩にそう言った。
「あれ?後輩、賄いが出るとか聞いていない?」
「いえ、そんな事は一言も言われていません」
そんな事は一言も言われていないミリカは、先輩の言葉を否定する。
「可笑しいな?……説明のし忘れ?それとも、無くなった?でも、いつものように作られているからそれは無いはず。それならやっぱり、忘れていたのかな?」
「せ、先輩?」
自分の返答を聞いた先輩がブツブツと呟き始めた状況を見たミリカは、何か可笑しな事を言ってしまったのかと思って、アタフタしながら先輩に声を掛ける。
「う~~ん、それしかないよね?「先輩!」わっ!ど、どうしたの後輩?」
結論が出始めた時にミリカに声を掛けられた先輩は、驚きの声を上げてミリカを振り返った。
「先輩、ブツブツと言っていましたけど、もしかして、私が何か可笑しな事を言いましたか?」
そう言って先輩を見詰めるミリカ。その顔は、不安げに揺れる瞳、先輩との身長さから、斜め上目遣いで見詰められ、そこに追い込みとばかりに間近……
「あ……ああ……」
先輩は段々と顔が真っ赤になり、「あ」しか言えない程、語彙力が落ち始め、こんな思いになり始める。
(何、この可愛い生き物!愛でたい!大丈夫だとよ、っと言って安心させて上げたい!嫁に来て!って伝えたい!ああ!この気持ち!どうすれば良いのーー!!)
「大丈夫ですか?」
(や、止めて……不安げな表情でコテンとする音が聞こえてくる首の傾げ……私、後輩を襲いたくなってしまう!!)
それでもなんとか抑え込んだ先輩は、ミリカを安心させようと言葉を言う。
「だ、大丈夫よ……少し目眩がしただけだから……」
「大丈夫じゃ無いじゃないですか!!どこか休める所に行きましょう?!」
(どうしよう……この優しくて、可愛い後輩と二人きりになってしまうと、私の欲が抑えれなくなってしまう!!)
本当に、このままで後輩を無理矢理引っ張ってでも二人きりになれる部屋に連れ込みそうになってきた先輩は、伝言を頼む事で離れてもらう作戦に出る。
「大丈夫、だから……それ、より、後輩は女将さんに、伝言をお願い、出来るかな?」
「……分かりました」
ミリカは、とても大丈夫そうには見えない先輩の様子にどうしようか悩んだが、強い意思が感じられる瞳を見た事で、不安ながらも伝言を預かる事にした。
「私は、少し休憩、してくるので、賄いは、後で食べます……これを、女将さんに伝えてくれる?」
興奮を抑える為に、意識をそちらに向けている先輩は、途切れ途切れになりながらもミリカに伝言の内容を伝えた。
「分かりました。先輩も、ゆっくり休憩して来てください」
ミリカは先輩の伝言を一言一句聞き逃さない心持ちで聞き、絶対に伝えると言う覚悟の瞳を持って先輩にそう返事を返す。
「大袈裟……だけど、頼んだよ」
「はい!」
先輩はミリカの返事を聞くと、抑えきれない程高まる興奮を抑えながら、ユラユラと休憩しに向かう。




