働きの始り
「そろそろ行かないとですね」
夕日が沈み始め、外が段々と暗くなって行くのに気付いたミリカはそう独り言を呟いて、部屋を出て行く。部屋を出るとミリカの耳に喧騒の音が聞こえて来た。
「もう始まってる!」
ミリカはもう仕事が始まってると思い、慌てて階段を下りて行く。
トントンと、階段を下りて行く度に喧騒の音が強くなり、ミリカはその音を聞く度に焦りが強くなっていき、階段を下りる速度も早くなる。
(遅刻した!!)
ミリカが階段を下りきると、宿屋の入り口から宿泊客達が楽しそうに帰ってきてるのが目に入り、ミリカは下りてすぐに女将が居るだろうと思う厨房に走って向かう。
タッタッタッタ
「すみません!遅れました!」
厨房に入ってすぐに、顔を動かして女将を探して見つけたミリカは焦りのあまり、大声で遅れた事を謝った。
「ん?……あっ、説明足りなかったね。嬢ちゃん。嬢ちゃんは遅刻じゃないから安心して良いよ」
その謝罪に最初、女将は意味が分からず首を傾げたが、心当たりがあった女将は落ち着かせるように気をつけながら、ミリカを宥める。
「えっ?……遅刻じゃない……」
女将に言われた言葉に、ミリカは呆然と顔を上げて言葉を復唱した。
「そうだよ。ちゃんと説明してなくて悪かったね」
ミリカの言葉に女将は頷き、申し訳なさそうに女将が頭を下げて謝る。
「い、いえ!全然気にしていないので大丈夫です!それより!料理の邪魔をしてすみません!!」
理解するのに時間がかかったミリカだが、理解すると同時に、頭を下げる女将に慌てて近より、なんとか頭を上げようと混乱しながらも逆に謝った。
「……これは、どうしたら良いのかね」
逆に頭を下げられた女将は、どうしたら良いのか分からなくなり、困った顔をする。
「なら、今日は接客頑張ってくれ!」
二人だけだと収拾が収まらなくなった時に、料理を作っていた男が作る手を止めずに振り向きながらそう叫んだ。
「は、はい!頑張ります!」
先輩の言葉に、ミリカは顔を上げて力強く宣言した。
「ふぅー。嬢ちゃん、そこの部屋に着替え室があるから、その部屋の一番左奥にある篭に服があるから着替えて来てくれ」
厨房で働く男に目線でお礼を伝えた女将は、息を整えてから、テキパキとミリカ指示を出した。
「はい!!」
その指示にミリカは返事を返し、すぐに着替えに向かって行く。
「さて、私も料理に戻らないとね」
ミリカが部屋に入るのを確認した女将は、そう独り言を言って料理を作るのを再開する。
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「あった!」
部屋に入ってすぐに、一番左奥にある篭を見ると、確かに服があり、ミリカはそう言って服を取り出す。
「…………」
しかし、取り出したのは良いが、その服を見たミリカは絶句した。
「これ……メイド服だよね」
プルプルと体を震わせながら、青い表情でミリカは呟く。
そう、ミリカが手に取った服は、手首まである長さに、膝したまでの長さしかない黒の服に、もう一つはエプロンと言う……世間一般ではメイド服と呼ばれる物だった。
「これを着ないといけないの?」
メイド服に何かトラウマがあるのか、とても嫌そうな顔で、服を着るのを渋るミリカ。
「でも、服を着ないと働けない……そうなると、女将さんに迷惑がかかる」
今ミリカは、急がないと言う気持ちと、着たくないと叫ぶ気持ちとがせめぎ合っていた。
「うぅ~~~!!ここは着るしかない!!」
メイド服を見て呻き声を上げて悩んだが、なんとか着たくない気持ちに勝ち、ミリカは抵抗感を感じながらも着替えて行く。
何があったんでしょうね?




