過去話 糊ハガキ
思い立ったら吉日、とばかりに書いた話
「お~~!!出来たーー!!」
御華は乾燥させたハガキを型から取り出し、そのハガキを両手で持ち上げ、喜びを表に叫んだ。
「上手く出来ていますね、御華ちゃん」
その声を聞いた図工の先生は、御華の元まで行き、欠ける事も無く綺麗に出来上がったハガキを見てそう褒める。
「でしょ!でしょ!特にこの花がお気に入りなの!!」
褒められた嬉しかったのか、御華は満面の笑みを浮かべて先生に自慢した。
「ええ、とっても可愛いですね」
子供が好きなのか、先生も御華と同じように満面の笑みを浮かべて相槌を打ってさらに褒めた。
「ふっふ~~!!」
褒めに褒められた御華は上機嫌に鼻を鳴らし、『凄いでしょ!』とばかりに、腰に手を当てて誇る。
「ふふふ、凄い凄い」
先生は微笑ましく思いながら、期待に応えるように褒めながら頭を撫でる。
「へにゃ~~!!」
撫で撫で好きな御華は、先生の撫で技術の高さに、変な鳴き声を上げて嬉しそうにする。そんなやり取りを見ていた他の生徒達は、先生に誉めて欲しくて我先にと先生に呼掛ける。
「せ、先生!私のも見て!」
「分かったわ。今から行くから待っててね?」
「はい!」
「ぼ、僕のも見てください!!」
「私のを先に見て!先生!!」
「いや!俺が先に!」
「ああああの!僕のも後で見て、欲しい、です……」
生徒間でこんなやり取りが続けば喧嘩になるだろうと思われた時、手を叩く音が響いた。
パンパン
「皆のもちゃんと見て上げるから、騒がないの。良いわね?」
手を叩いて生徒を静かにさせた先生は皆を見回してそう言う。
「「「「「はい……」」」」」
生徒達は、いつもの笑みを浮かべている筈なのに有無を言わせない雰囲気を纏った先生に対して、頷くしかなかった。
「ふふふ~~~」
そんなやり取りが隣で行われているにも関わらず、御華は自分で作ったハガキに夢中で気づかない。
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「さて、ハガキが出来たらする事は何でしょうか?分かる人、手を上げてください」
皆のハガキを見て回った先生は、教壇に立ち、そう皆に問い掛けた。
「はい!」
「詩菜ちゃん、何だと思いますか?」
手を上げた子、詩菜ちゃんに先生は優しく問い掛けた。
「ハガキを出す事だと思います!」
席を立ち、詩菜ちゃんがそう答えると、
「正解です!詩菜ちゃん、答えてくれてありがとうございました!」
パチパチパチパチ
そう詩菜ちゃんを褒めて、先生は拍手した。それにつられて皆も詩菜ちゃんの方を振り向いて拍手をすると、詩菜ちゃんは少し恥ずかしそうにしながらも席に座った。
「詩菜ちゃんが言った通り、ハガキはポストに入れて、誰かに送る必要があります。これから皆には、誰かに宛てたハガキを書いてもらいます。その相手は親でも良いし、兄弟でも良い、お爺ちゃんお祖母ちゃんに送るのも良いですよ?誰に送りたいのかは、皆にお任せします。今からマジックペンを渡しますので、日頃の感謝でも、『これが食べたい!』なんて事でも良いので、好きに書いてみてください」
「「「「「「はーい!」」」」」」
先生の説明に笑ったりした後、御華も含め皆は先生の元に行き、マジックペンをもらったら席に戻って、誰に向けたハガキにするのか悩みながら書き始める。
「どんなハガキが出来上がるかな?」
悩む姿を教壇にて見ている先生は、どんなハガキが出来上がるのか楽しみにしながら見守るのだった。
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「誰にしようかな?」
ハガキを見詰めながら御華は、う~んと頭を悩ます。
(ママかな?パパにしようかな?お姉ちゃんにも送りたい!う~~!!どうしよう!)
家族全員に送りたいが、ハガキは一枚しか無く、誰か一人にしか送れない事に御華は頭を悩まし続けるが、ふと、閃きが頭の中に浮かんだ。
「あっ!全部書けば良いんだ!」
善は急げとばかりに、御華はさっそくハガキに書いて行く。
『ママへ。いつもお仕事お疲れ様。中々会えないけど、ママの事、大好き!
パパへ。……』
「う~ん。どう書こう?」
このまま書けば、ママ宛の言葉と似た事になると気づいた御華は、どうパパに書こうか悩ます。
「思い付かない……もう、思った事を書こう!」
少しの間悩んだが、その解決策は出てこなくて、御華は思った事を書いて行く方向にした。
『パパへ。優しい笑みが好き!高い高いをしてくれるのが好き!時々、顔が腫れてるのが面白い!パパの全部全部が好き!
お姉ちゃんへ。いつも髪を洗ってくれてありがとう!お姉ちゃんの撫で撫では最高!お勉強を教えてくれてありがとう!お姉ちゃんの料理は美味しい!お姉ちゃんに抱き付くのが好き!お姉ちゃん大大大好き!!』
「はっ! あれ?もう終わってる……」
途中から無意識で書いていたのか、お姉ちゃんへの感謝の気持ちが綴られたハガキを見た御華は不思議そうに首を傾げた。
「でも、全部書けた!!」
難しいかなと思っていた御華だったが、無事に家族全員分の感謝の気持ちが書けた事に満足がいって、そんな些細な事は忘れて先生に渡しに向かう。
「先生!出来たー!!」
「早いですね。どれどれ……」
御華がそう言って渡したハガキを受け取った先生は、目を通して行く。
「うっ!」
最初は、微笑ましい内容に思っていた先生だが、読み進めるにつれて、御華の可愛さに心を射たれ始め、遂には呻いてしまった。
「せ、先生!大丈夫ですか?!」
呻いた先生に、御華は驚きながら心配になって慌てて声を掛けると、
「ふぅー、大丈夫よ。それより、御華ちゃんはこのハガキを持って席に戻っていてくださいね?」
「う、うん!」
いつもの先生に戻ってそう言われた御華は多少、混乱しながらも言われた通りに席に戻る。
「これは、御華ちゃんの家族が心配ね……」
席に戻って行く御華を見詰めながら、真剣な表情をしてそう呟く。
その後、皆もハガキを完成させて先生に見てもらい、今、最後の一人が席に戻り座った。
「これで今日の図工は終わりです。完成させたハガキは、届けたい相手の家のポストに入れてください。何か質問はありますか?」
「先生!それは自分の家でもですか?」
「はい、その通りですよ。家族に宛てた場合は、家のポストに入れてくださいね。他に質問はありますか?」
生徒の質問にそう答え、先生は他に質問が無いか生徒達を見回して確認する。
「居ないみたいですね。それでは、図工を終わります」
キーン コーン カン コーン
先生が授業の終わりを告げると同時に鐘がなり、凄い凄いと生徒達ははしゃぐのだった。
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(いつかな?いつかな?)
今、御華は、居間の入り口から玄関を覗いており、ワクワクしながら手作りのハガキを持って家に入って来るのを待っていた。
「御華、そこで何をしてるの?」
「ッ!!」
そんな御華の背後から、先に家に帰って来ていた姉がそう聞くと、御華は体を跳ね上げてビックリする。
「何の事かな、お姉ちゃん?」
急に声を掛けられた事でドキドキと心臓が高鳴りながらも姉に振り返ってそう問い掛ける。
「何って、御華が玄関を覗いていた理由よ?」
問い掛けられた姉は、訝しげに御華を見ながらも理由を言い、『答えなさい』と目でも御華に問い掛けた。
「それは、早くママとパパが帰ってこないか楽しみだから覗いていたの」
姉の圧力から素直に言ってしまいそうになる自分を押さえ付けて、御華は目を反らしながらも半分本当の理由を話した。
「そうなのね。疑って悪かったわね、御華」
少しの間が開いた後、姉は理由になったくしたのか部屋に戻って行く。
「良かった~~」
その後ろ姿を見ていた御華だが、やがて姉がソファーに座ったのを確認すると、その場でへたり込み、ホッと安堵するのだった。
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夜、御華が寝たのを確認した姉は、居間に戻り、ソファーでゆっくりしてる二人に近づいて問い掛ける。
「ねえ、母さん、父さん。何か無かった?」
「何かって?」
「何も無かったですよ?」
二人は姉の問い掛けに首を傾げながらもそう答えた。
「そう」
二人の答えを聞いた姉は顎に手を当てて、思考を巡らす。
(可笑しいわね。御華があそこまではしゃぐのは何かイタズラを仕掛けた場合が多い。なら、絶対何かを仕掛けてる筈……)
「「?」」
自分達の後しろで何かを深く考え始めた姉を見て、父と母は顔を見合わせて首を傾げる。その間も、姉はさらに深く思考を巡らし考える。
(夕方の御華の様子を見る限り、父さんと母さんに見つかる可能性が高いと考えていた見たいだがら、家である事は間違いなさそうね。そこからさらに、御華の発言と居た場所を考えると、玄関から家の入口までの間に何かがあることが分かるわね。でも、範囲は分かっても、その間の何処にあるかが分からないわ……ふぅー、先ずは分かっている情報を整理しましょう。1、御華は玄関を覗いていた。2、父さんと母さんに見つかる事を期待してた。3、玄関から家の入口までの間にある。今現在、分かっているのはこれだけかしら?情報を整理したお陰で答えに近づけた……いえ、分かったわ)
答えが出た姉は、確かめる為に家の外に出ることにした。
「外にある、郵便受けを見てくるわ」
「どうしたの急に?」
突然の発言に母は戸惑いながらも理由を聞くと、
「そこに、御華が何かを仕掛けた可能性があるからよ」
「「?」」
あやふやな回答が返って来て、父と母はさらに困惑するのだが、
「確認しに行くわね」
姉はそれだけを言って、居間を後にする。。
「何の事でしょうか?」
「さあ、私にもさっぱりです」
姉が居なくなった後も、二人は姉の言葉の意味を理解しようとするが、まったく分からず首を傾げざる得ない。
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「やっぱりあったわ」
姉がポストの中を見るとそこには何かは確かにあったが、ポストの中は暗く、その何かは薄っすらとしか形が見えない。
「ふふふ。今回のイタズラは何なのかしら?」
普通、イタズラだと予想がついてるのであれば、多少の警戒心を抱きながら見たり、手に取ったりするものだが、姉は一切の警戒心を抱かずにその何かを手に取り、それを見てしまった。
『ママへ。いつもお仕事お疲れ様。中々会えないけど、ママの事、大好き!
パパへ。優しい笑みが好き!高い高いをしてくれるのが好き!時々、顔が腫れてるのが面白い!パパの全部全部が好き!
お姉ちゃんへ。いつも髪を洗ってくれてありがとう!お姉ちゃんの撫で撫では最高!お勉強を教えてくれてありがとう!お姉ちゃんの料理は美味しい!お姉ちゃんに抱き付くのが好き!お姉ちゃん大大大好き!!』
「な、何、この可愛い文章は……」
ハガキの内容を見た姉は、暫くの放心の後、ポツリとそう呟く。
「これは母さん達に見せないと!」
この内容を読んだ瞬間から姉の中に使命感が宿り、直ぐ様父と母の居る居間に走って向かって行く。
バァン!!
「「ッ!?!?」」
居間の扉を思いっきり開けた姉は、ズガズガと混乱する父と母の元に向かう。
「これを読んでちょうだい」
父と母の元まで辿り着いた姉は、とても大事そうに手に持つハガキを重々しく父と母の目の前に置いて、促した。
「こ、これを?」
「分かった。読んでみよう」
母は困惑と混乱が入り交じった複雑な表情をしながらハガキを見、父は姉の真剣な瞳にそれほど大事な事なんだと受け取り、父も重々しく答えながらハガキを読み始める。
「ッ!!」
たった数秒、ハガキの内容を読んだ父は衝撃のあまり固まってしまう。
「え?」
ハガキを手に持ち、ピクリとも動かなくなった父を見た母は、何が何だが分からず呆然とする。
「父さんでも、耐えられないみたいね」
そんな父を見て、姉はこの状況を予想できていたのか特に驚きも無く、ただただ、このハガキの凄さに感心した。
「え?え?え?」
母は今の状況に理解が追いつかず、「え?」しか出てこなかった。
「母さんも、これを読めば分かると思うわよ」
そんな母に、衝撃を受けること間違いなし!っと自負と言うより、衝撃を受けた側の謎の自信がある姉は、母にハガキを渡して促した。
「わ、分かったわ」
(これにどれだけ危険な事が書かれているの……)
ゴクリと唾を呑み込みながらハガキを受け取った母は、恐る恐るハガキの内容を読む。
「これは、家宝にしましょう……」
内容を読み進める内に母の体は震え始め、読みきるとハガキを大事そうに手で包み込んだ。
「ええ、私も家宝にするのが良いと思うわ」
母の言葉に、理解者を得たとばかりに姉も同意する。
「ふふ。今回の事はハガキに免じて見逃してあげるわ」
「何の事かしら?」
意味深な母の言葉に、姉は惚ける事ではぐらかす。
「まあ、良いわ。それより、このハガキを何処に飾りましょうか……」
最後に姉を半目でジーっと見た後、思考を切り替えて、飾り場所の候補を探す。
「分かりやすく、玄関が良いと思うのだけど?」
「それも良いわね」
姉と母はその後、明け方までハガキの飾り場所について話し合い、それが終わったら額縁の話しに移行するのだった。
どうでしたか?『御華、可愛いーー!!』っと思っていただけたら嬉しいです!




