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第98回「感謝という言葉を使わずに感謝を表現せよ」

______________________________


くまくま17分


 何気なさを装いながら、彼女が窓を開けてる最中にその言葉を伝える。


「ど、どうしたの? 改まっちゃって」


 ほんのり頬を上気させながら訊ねる彼女に、日頃の気持ちだよと、視線を逸らしながら答える。

 僕には時間がない。

 だからこそ、後悔の無いように言いたい事は言っておく。

 でも、「愛してる」なんてとてもじゃないけど言えない。

 余命僅かな僕が、その言葉で彼女を縛り付けるのは卑怯だろうから。


「まったく、何を言い出すかと思えば」


 はいはい、と言って一笑に付す。

 これは自分のしたい事だから。気に病む必要は無いのだと、明るく朗らかに彼女は笑う。

 今日もまたはぐらかされた。

 せめて最期に心残りの無いようにしたいのだけど、それは明日以降に持ち越された。

 残り少ない時間。

 今という瞬間が得難いからこそ、その言葉を届けたい。

 しかし、届かない。

 こんなに君を思っているのに。

 それがもどかしい。

 それでも彼女に暗い顔は見せまいと、眩しい笑顔に応えるように自分も口角を吊り上げ、僅かな一時を彼女と一緒に過ごす。



 彼の部屋を後にして、扉を締め切り音を遮断する。

 壁に背中を預けると、そのままズルズルともたれながら腰を落とし膝を抱えてうずくまる。

 涙が溢れて膝を濡らす。

 今日も、あの言葉を受け取れなかった。

 だけど、仕方ない。

 だって、そうだろう。

 その言葉を彼が告げると、嫌でも最期を匂わせる。

 終わりが近いのだと、突き付けられるのが怖くて仕方ない。

 だから、弱い私ははぐらかすしかない。

 勿論、それは彼を少なからず傷つけて。

 だけど一体、どうすれば良いのだろう?

 誰か教えて欲しい。


「どうせなら、愛してるって言ってよ………っ」


 それなら受け取れる。

 その言葉さえあれば、きちんと最期を受け入れられるのに。

 彼が居なくなった後も、ちゃんと生きて行けるのに。

 でも、彼は絶対に言わないだろう。

 私の重荷になりたく無いから。

 別にいいのに。

 寧ろ、背負って生きたいのに。

 でも、彼には伝わらない。

 それが、この上なくもどかしい。

 抱えた膝の中、私は嗚咽を漏らした。


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