第97回「画像をイメージに雪景色を表現せよ」
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くまくま17分
厳冬期の吹雪。
吹き荒び降り積もる雪のせいで視界が白濁し見通しが利かない。
空と大地の境界が白くぼやけ、吹き付ける風と凍える冷気で手足がかじかむ。
弾む息を白く氷らせながら、埋まらぬように雪を掻き分け除雪作業に没頭した。
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時刻猫123世
まっしろだった。
地面には雪、空には雲。
似ていたとしても、確かに違う色のふたつが、霧雪によって繋がれていた。
「ホワイトアウトって言うんだって」
助手席の彼女が笑って言うが、ぼくには笑う余裕は無い。
だって、まっしろなんだ。
右も左も解らないし、標識だって見えやしない。
必死に目を細めて道路をたどるだけで精一杯だ。
「何かの漫画で、そんな技を見た気がするよ」
「へぇ、そうなの」
漫画を読まない彼女は興味なさげで、なんだかすこしだけ寂しかった。
それでも、大事なぼくの恋人だ。
きっと苛々させちゃうけれど、安全運転で行くとしよう。
それに、一緒に居られる時間も増えるから、悪いことばかりじゃない。
ぼくはまっしろに感謝しながら、ペダルを優しく踏んでいく。
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髭虎
重く凪いだ曇り空。俺も同じく分厚い衣を身に纏い、雪深い霊峰を一歩、また一歩と踏み荒らしていく。
道中は雨雪に降られることもなく、魔物に襲われることもなく、何とも平和なものだった。山の天気は変わりやすいと言うが、こう穏やかだと後で反動が来そうで怖い。
まぁ、これから自然の脅威そのものみたいな奴を相手にするのだが。と、そこまで考えて俺は深くため息を吐く。
「やっと中腹か……」
膝まで埋まるような雪道を掻き分け、文字通り一歩間違えればあの世まで滑り落ちていくきそうな斜面を、幸運にも間違えることなく進んでいく。
雪崩が起きた。しかしここまでは届かなかった。
固められた雪に足が滑った。されど大事には至らなかった。
まったく。自然には拒まれ、されど運命には愛されているらしい。忌々しい限りだ。
腰に佩いた由緒正しい聖剣とやらを拳で叩く。
「笑えるなぁ」
ここには旧友に会うために来た。遠い昔、酒を酌み交わした相手だ。
愚痴を聞いた。半生も聞いた。共に人生を語り合って、ああやっぱり世界はクソだと乾杯した。
そんな相手とこれから再会し——俺はそこでそいつを殺すだろう。
人間は神秘を否定する事を選んだ。ならば人類の代弁者たる俺は、それを直接突きつけなければなるまい。
魔獣に、幻獣に、精霊に、神秘たる友たちに。
お前らはもういらないのだと。だからこの時代で死んでくれと。
そんな幼き頃の友たちを殺して回るのが、俺に求められる俺の役目なのだから。
「友殺しが……こんなのが勇者とはまったく笑える話だ。なぁ、フリームスルス?」
『あぁ、笑えるとも』
フリームスルス。霜の巨人。見上げてもなお届かぬ霊峰の王が、巌のような声を響かせた。
『だが、貴様は選んだのであろう?』
直後、凪いだ空が渦巻き始めた。
風が吹き荒れ、雪嵐が視界を潰し、凍土と化した環境が細胞を徐々に壊死させる。
目を開けば眼球が凍るだろう。口を開けば喉が潰れ、息を吸えば肺が死ぬ。
こんな奴らばっかり相手にしないといけないのだから、勇者とは損な役回りだ。
剣を引き抜き、気配だけを頼りに一歩を踏み出す。
『ここで止まれ。人間』
「それは他の偉い奴らに言ってくれ」
最期の会話のために肺を少し傷つけながら。
俺はまた、一柱。
友を殺した。
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