第94回「暖という言葉を使わずに暖を取る様子を表現せよ」
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ムッチャーザクッチャー(無茶苦茶
こたつに入ってぬくぬくぬく、こたつの中でぐーぐーぐー、春はまだかな、春はまだかな?
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髭虎
パチリ、と。
薪の爆ぜる音で目を覚ます。
夜の帳が下りた森の中。薄く瞼を開けばゆらゆらと、目の前には優しい色味を帯びた炎が揺れていて……あぁ、私は眠っていたのかと、そうゆっくりと自覚する。自覚して、ふと考える。
ならば誰がこの火を見ていてくれたのだろうか。
「ハァ、やっと起きたわけ……?」
呆れを滲ませた声が静かに響く。ポツポツと、私の耳を震わせる。
釣られるように顔を上げると、焚き火を挟んで向こう側に彼女は居た。
癖のない肩までの髪。意志の強そうな鋭い瞳。
炎にあてられ薄く火照る白い肌を見るに、どうにも長いこと火の番を任せてしまっていたらしい。ならば嘲るような視線も言葉も今は甘んじて受け入れるほかない。
私は恭順の意を示すように静かに首を垂れる。
「自分の仕事も放り出して眠りこけちゃって、まったくいいご身分ね? 羨ましくなるわ」
「あぁ、返す言葉もない。この埋め合わせは必ずするとも」
「へぇ? いいこと聞いたわ。あなたにもちゃんと貸し借りって言葉があったのね」
「何を隠そう最近覚えた言葉だ。知らないのも無理はない」
「……あなた本当に反省してる?」
そんないくつかのやり取りの後、何とか今回のことは貸しということで許してもらった。
顔を上げて、白み始めた空に私は小さくため息を吐く。
本当に長いこと任せきりだったらしい。疲労はないかと見つめていると、不意にきょとんとした彼女と視線が重なる。
「……すまないね。助かった」
「別に。もういいわよ」
新しい薪を挿し入れながら、彼女は呆れたように肩をすくめる。
またパチリ、と音が鳴った。
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くまくま17分
星空が照らす荒野。
少女は白狼と身を寄せ合って床に就く。
長い白銀の柔毛に身体を埋めると、体温が感じられて温かい。
不毛の大地を駆け抜ける涼風も、一緒なら寒くない。
よしよし。くっ付けた額を撫でてやると。甘えたような声を漏らす。
可愛いヤツめ。その様子に満足して少女は瞳を閉じた。
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