第92回「寒いという言葉を使わずに冬の寒さを表現せよ」
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くまくま17分
厳冬の2月。
雲一つ無い満天の星空、清澄な夜を三日月が優しく照らす。
「死ぬ……凍え死ぬ……」
ガタガタと奥歯を震わせ、芯まで冷え込む身体を抱き寄せながら、少年はアパートの一室から締め出されていた。
真冬の冷気が肌を刺す。頬はひりつきすっかり冷たい。
もう、限界だ。
膝が笑い身体が揺れる。素足がかじかんで床に着けてられない。
「ホントきつい。マジでムリ。部屋着だよ?死亡フラグじゃん」
一体、いつまでこうしていればいいのか?
烈火の如くカンカンに怒った彼女の怒りが、一秒でも早く鎮まる事を祈った。
足先の感覚が薄れた頃、祈りが通じて扉が開かれた。
チャンス、今しかない!
扉から姿を現した彼女へ、思い切り抱き付く。
「ちょっと、何なになにっ………?」
目を白黒させる彼女に構わず、強く抱き締めながら扉を締める。
冷気を締め出し、全力で彼女を抱きすくめて足を浮かせ、ストーブの暖気が支配する居間へと到着。
暖かい。氷獄からの帰還を果たし、背中まで手を伸ばし頬擦りをしてその温もりと豊かな身体の凹凸、芳しい香気を心ゆくまで堪能した。
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くまくま17分
真冬の極冷気は手足から体温を奪うだけでなく、感覚までも侵食し痺れて痛み出す。
外気に満ちる凍気は息をも白く凍らせ、容赦なく肌を突き刺し鼻がかじかんで痛んだ。
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冬月アキラ
涙も凍る母なる大地シベリア
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