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第84回「凛とした女性を描写せよ」

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ねいすちゃん


 窓から差し込む日差しが逆光となりその横顔の表情は伺いしれない。

 しかしながら長い髪を束ね、スキニーなスーツを着こなす彼女の歩く姿を僕はただ格好いいと思うことしか出来ず、声をかけることは出来なかった


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蒼堆 こなゆき


 黒く艶やかななショートヘアとは対照的に、透き通るような白い肌に、薄い白色のワンピース。まるでガラス細工のような彼女は、昼下がりのカフェのオープンテラスに座っていた。道にそって並べられた街路樹の木漏れ日がテラスを点々と照らす中、彼女は紅茶を飲んでくつろいでいた。

 ――立ち止まってずっと彼女に見蕩れていた私は、彼女に見つかってしまった。不思議そうにこちらを見た後に、目を細めてくすっと笑う彼女。私は急いでその場を離れたが、鋭さすら感じる輪郭に整った顔の彼女の顔は、ずっと頭を離れなかった。


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ヨッシー


 ――毎朝、僕は校門で挨拶するのが日課だ。

 何故ならそこに彼女が居るからだ。

 校門に真っ直ぐに咲く一輪の百合の花の様に、彼女は可憐で美しい人。

 彼女の長くて綺麗な黒髪はまるで絹の様に早朝の太陽の光でキラキラと輝き、そして彼女の鋭い眼光で風紀を乱している生徒が居るかを確認している。

 だがそんな厳しい彼女はとても人気があり、成績優秀で清廉潔白な彼女は他の人の仕事や頼まれ事に対してキッチリと完璧にこなし、クラスでもいつも中心に居る存在である。

 僕は校門をくぐり抜け、大きな声で挨拶をしながら彼女を横目で見ながら目の前を通る。

 すると彼女は小さい声で僕の名前を呼ぶ。

 僕はそんな彼女の声に振り向くと、彼女は僕に向けて微笑みながら軽く手を振っていた。

 僕はそんなカッコ良く、そして優しい彼女に恋をしている。


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髭虎


 俺はいつでも、どんなことでもそこそこはできる人間だった。

 生まれはクソみたいな場所だったが、持ち前の器用さで上手く世渡りを続けて、今じゃあそこそこの冒険者として仕事も女もそこそこ上手く回せていた。あぁ、だからそう。きっと俺は調子に乗っていたのだろう。


「ハァ、ハァ…………」


「ヒヒッ、おいおい、人間ってのはどいつもこいつも弱っちろいなぁ?」


 魔族。人間並みの知能を持った魔物。そんなのが最近目撃されるようになったのは知っていた。どんな手段を使ってか街中にも出現し、そのたびに何人かの人間を連れ去っていくらしい。新聞でよく勇者とやらがバッシングされているのを見るが。なるほど、当事者になると誰も救援に来ないこの状況に、二、三の恨み言は言ってやりたくなる。


 折れた利き手は使い物にならない。落とした武器は遥か向こう。存分に嬲られたせいか、もう足腰も立ちそうにない。俺は立ち上がるのも諦めて力なく呟いた。


「あぁ、もう無理だわ」


 別に無理してまで生きようとは思わない。生き足掻こうとも思えない。戦っても勝てないのは分かったし、だからといって命乞いをしたところで聞き入れてもらえるはずもない。

 結局俺は、人生すらもそこそこで投げ出して終わるのだろう。そう思うと何だかやる気もなくなってきた。


「おいおい、つれねぇこと言うなよぉ。オレはまだ壊したりねぇんだゼぇ? オレの仕事を邪魔しやがったテメェの腕を、足を、目を、鼻を! これからもっとグチャグチャにしてやるんだからなぁ?」


 あぁ、何で俺はこんな奴と戦おうと思ったのだろう。勝てないのは分かりきっていただろうに。

 けれど、ただ……子供を見捨てるのは違うだろう、と。何を勘違いしたのか、そんな馬鹿な正義感を振りかざしてやってきたのは確かだった。たぶんこうなると知っていたら助けなかっただろう、そんな程度の正義感だ。笑えてくる。


 俺はこれから辿るであろう未来に奥歯を震わせながら、脳内に恨み言を連ねる。

 どいつもこいつも見た瞬間逃げ去りやがって、助けに入るどころか助けを呼ぼうとすらしねぇ。この世にはゴミばっかりだ。いつもイキり散らしてるやがる冒険者どもも、本物の脅威には立ち向かえない。“命知らず”って肩書きが聞いて呆れるよな。そんな奴らを助けようってのは、とんだお人好しかバカだけだ。あぁ、ちくしょう。そのいつも間に合わない勇者とやらにも一言言ってやりたいね。



 ——助けてくれ、と。



「おねぇちゃん、あっち!!」


 ついさっき聞いたような少女の声。直後、俺と魔族との間に美麗な長剣が割り込んでくる。

 掬い上げるような一撃。それは防御姿勢を取った魔族を身体ごと上空へ打ち上げると、そこで一瞬動きを止める。


「ありがとう。あとは私に任せて」


 急いでいたのだろう、急いで、くれたのだろう。小さく乱れた呼吸を整えながら“彼女”は言う。


「さぁ、此処に! 人の未来を斬り拓こう!!」


 優しく、けれどどこか芯の通った声だった。暗月のような綺麗な黒髪だった。そしてそれは紛うことなき、“救う者” としての意志を宿した瞳だった。


 これが勇者。これこそが人類の守護者、その本質。

 俺は怪我の痛みも状況も忘れて、ただただその姿に魅入ってしまう。


 そして彼女はその聖剣を振るう。


「エクスカリバー!!」


 極光が全てを飲み込んでいく。空にこぼれた燐光が勇者の横顔を淡く照らし、そしてきっとその瞬間、俺は人生で初めて——


 ——本当の意味で、“恋”をしたのだろう。


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くまくま17分


 神秘的。その神楽を初めて見た時、そう直感した。

 神社の境内を舞台に巫女が管弦の音色に導かれて舞う神楽奉納。

 儀礼のような重苦しさや、

 ストリートのように軽快でもなく、

 ただ、清流のように淀みなく。精妙無比な所作で演舞を繰り出す。

 眼を伏し、口を引き結ぶ様は正しく祈祷。一心に祈り、力む事なく総身を漲らせたおやかに舞い踊る。

 その様子は厳かという言葉が良く似合う。

 演舞から放たれる静かな迫力に圧倒され、総身の温度が下がって粟立ち、伸ばした背筋が凍った。

 背筋を正し神妙な顔で祈りを捧げ、神秘と霊験を体現した舞踊で観衆を祈祷に引き込む。

 その姿に思わず呼吸を忘れ、暫しの間見とれていた。


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