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第82回「『贅沢』という言葉を使わずに贅沢を表現せよ」

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蒼堆 こなゆき


「ねぇパパ。そろそろトリュフは飽きてきたわ。どうにかしてちょうだい」

 娘がディナーの後に、こう言ってきた。最近トリュフが沢山手に入ったのでこうなってしまうのは仕方が無いが、他でもない娘の頼みだ。なんとかしなくては。


「PO·····」


「ん?」

 僅かに何か聞こえた気がした。


「PON····· CRASH·····」


 今度ははっきりと聞き取れた。なんなんだこのふざけた英語は。


「PON! CRASH! CRASH!

 PA! PA! PA·····!」


「うっ·····頭が」


 ――


「凄いわパパ! このマシーンでトリュフをCRASH!すると粉状になってスパイスが作れるのね! 普段の削ったトリュフより美味しいかも」


「気に入ってもらって良かったよ。なんせあのスタージュンも認めたグルメスパイザーだからな。トリュフをふりかけた朝食はまたいつもと違っていいだろう?」


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風間


「あ?酒の肴だ?んなもん、糠漬けとこの満月で十分だろうが!それで酔えねぇなら人間なんざ辞めちまえ!」


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鬼鉄改


 とある時代のある所に、貧しい家族がおりました。

 それはもう、明日の生活どころか今日生き残れるかも疑わなければならない日々を送っていたのでした。


 そんなある日のこと、早起きして昨夜一晩で自分の背丈ほどまでに積もった雪をどかしていた一家の末っ子は、雪の中からある物を見つけました。

 それは彼の暮らす国で一番高い貨幣で、末っ子にとっては兄弟のお話の中でしか出てこないような、まるで縁のない物でした。


 貨幣を手に入れた少年は家族に報告しようと思いましたが、ふと立ち止まって考えました。

 これで食材を買ってきて料理してあげれば、きっと家族は喜んでくれるのではないか——そう考えた少年は、雪かきの道具をほっぽってすぐさま最寄りの——といっても大きな道路五本以上は離れている——お店へと走っていき、家族の好物を買いました。


 家へと帰った少年は、まだ眠っていた家族を起こして、自分の買ってきた物を見せました。

 兄弟は舞い上がって抱き合い、父親は夢かどうかを確かめるために両方の耳たぶを引っ張り、母親は滅多に手に入らない好物達をどう料理しようか考えて舌舐めずりをしていました。


 そうして作られた朝食は、街の普通の人々にとってはいつもとなんら変わりのない物でしたが、一家にとってはこれ以上ない幸せの象徴に思えましたとさ。


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くまくま17分


 艶やかな光沢が眩しい緋色のドレス。肩口から背中に掛けて露で艶かしいかと思えば、生地をふんだんに使ったフレアスカートはフリルをあしらいながらも重さを感じさせない軽やかな印象。それでいて気品が漂う。

 散りばめられた宝石と意匠は主張し過ぎず、繊細精巧な装飾は艶美なドレスを引き立てる。

 職人が技巧の粋と膨大な時間を掛けて作り上げた芸術作品。

 そしてその豪奢な衣装に劣らず、寧ろそれらでこそより際立つ乙女の美貌、華奢な肢体。

 この絢爛極まる夜会の主賓は誰か。

 彼女を迎え入れた静寂がそれを雄弁に語っていた。


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noname_000


 少年はバルコニーから外を眺めてため息をついた。

 皆、自分のことを幸せだと言うが本当にそうなのだろうか?

 実際、幸せだと感じたことはあまりない。

 朝起きて、ご飯を食べて、勉強して、寝る。

 ただそれだけの繰り返しだ。

 バルコニーの外で、スラム街の子供達が楽しそうに遊んでいる。

 少年はつくづく思った。

 見ず知らずのみんなとあんなふうに遊べるあの子たちの方が幸せなのではないかと。

 彼らは僕と違って一日中遊んでいても怒られない。

 美味しいものを食べられるじゃないかと人は言う。

 しかし、鮫の卵や、ガチョウの内臓、変な黒いキノコなんて毎日食卓に出てきては食べさせられるが美味しくなんかなかった。

 それよりか、分厚くて高い壁の向こうのみんなが食べているハンバーガーが食べたい。

 溢れ出す肉汁、シャキシャキのレタス、果汁たっぷりのトマト。思いを馳せるだけで涎が出てくる。

 彼らは僕と違って自由だ。

 僕なんか、夏も冬も変わらず袖が長くて金ピカで不恰好な服を着せられる。

 彼らは僕と違って幸せだ。

 いつもそばにいるメイドなんかいらないから、僕もあの中に混ざりたい。

 そう王子は思った。

 そばを見ると、鳥籠の中の鳥が庭で自由に飛び回っている鳥たちを眺めていた。

 王子はバルコニーから外を眺めてため息をついた。


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