第76回「貧乏という言葉を使わずに貧乏を表現せよ」
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髭虎
「ふへへ……なぁ、知ってるかマサト。段ボールってなぁ、く、食えるんだぜ?」
そう言って家を出て行った兄さんはそれっきり二度と帰ってくることはなかった。
家族は残り3人。明日は誰を食えるかな?
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くまくま17分
汚物が水底に澱となって沈み、腐臭を放つ芥川。
その傍ら、天井を襤褸布で覆ったあばら屋が身を寄せ合う貧民街。
ボロ布を纏い薄汚れた少年が鼻を利かせ、街に漂う腐臭の中から食べ物の臭匂いを探していた。
「ん? これは………?」
かぎ分けた臭いの中に、今まで嗅いだ事の無い香り。
芳しく心が華やぐそれを、薔薇の香気だとはまだ知らない。
昨日、市場で果物を一つくすねたおかげでまだそこまで空腹ではない。
それでも、明日食べ物にありつけるという保証は無い。ならば、食える時に食っておくしかない。
その匂いを辿っていくと、ゴミの掃き溜めにやって来た。
雨水に濡れ、カビの生えたそれらを掻き分け、匂いの元を掘り当てた。
それは、一人の少女。瞳を閉じて寝息を立てていた。
それが少女と少年、二人の邂逅した瞬間だった。
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