第73回「ギリギリという言葉から連想出来る情景を描写せよ」
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みさとみり
プリントに赤ペンで描き出された、チェックマークの大群。
かろうじて紛れ込む丸。
右上に31の数字が踊る。
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鬼原リン
そうだなぁ
例えばヨォ
シャトルランで、記録伸ばしたくてよ
最後のドが鳴り終わる頃に体育の引かれてる線を踏む時
踏んでねぇ奴いるだろ
あれがセーフなら、俺がやってることもセーフなんじぁねぇかって
要するに許せるか許せないかの瀬戸際ってことだ!!
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隻迅☆ひとみ
【鐘の音よ私に届け】<ギリギリの私>
その小さい小屋には数人の子供と、数人の大男が居たのを見た。
暖炉は在るものの火は点いていない。
泣くような隙間風は、外が寒いと、肌に障り、鳥肌も青ざめた色を呈し、知らせていた。
窓の外には雪山が見え、生い茂る木々が山奥独特の情景を、昼夜とわず同じ景色を見せている。
ジャリっと金属の音が鳴った。
誰かが動いたのか?
たまに寝返りか、居心地を変えるたびに聞こえてくる音だ。
鎖が動く時に、石床に擦れる音だ。
ここへ連れてこられた日から、あの窓を眺めて、もう80日が過ぎた。
今日は食べ物をもってくる日なのか、そのぐらいが楽しみでしかない。
何故か食事だけはうまい物が持ち込まれる。
今、大男たちは居ない。
3日前に大袋を担いで出ていった姿を見た。
私にはあの袋から漂う臭いと、その晩の耳を塞ぎ歌を歌い遮りたい出来事から、何が詰まっているのか判っている。
その夜は、血の匂いが鼻を曲げるほどで、地下で叫び狂う子供の悲痛が聞こえていたからだ。
普段から悲痛な叫びはよく聞こえる小屋だけに、自分がその順番に加わることをみんな知ってる。
最初はそれが怖くて、誰でも暴れていた。
鎖を岩に叩きつけようとした者、信ずる神を呪っていた者もいた。
先に居た者が、すでに生気を失っていようと、皆、自分がどうなるかが怖いのだ。
私も首輪が千切れ、手足の枷も千切れたら、必死に窓の外へと逃れようとするだろう。
何度も見ては諦めた巨大な鎖へ視界を下す。
10個も連なると起き上がる事もできない重さになるのだ。
片目から涙が垂れ、泣いていることを知る。
しばらくそのままで、頬が乾くのをまっていると、ドーンと外の扉があけられた。
食事か参事か、このあと決まる。
ヅンヅンと足音が内部へ寄るのが聞こえる。
外扉から入る風は、私の居る場所へ風をはこんでいた。
それで分かった匂いも、今日は違うようだ。
いい匂いはしない。
私は血の気が引くのを覚えた。
そう、そろそろ、私がもっとも古参となるのだ。
私の隣で、62日一緒に繋がれていた子は、先週地下室へ連れられて行った。
地下室へいってしまったら、もう戻ってはこない。
彼女が居なくなった日、深夜の叫びと祈りの雄たけびと共に、あの音が聞こえていた。
もう覚悟が決まったとは言えないが、私の番がくる頃だろう。
大男のオークは顔を先に突き出すように部屋に入る。
建物は小さいわけではないが、背丈を丸めるようにして建物をつかっている。まるで洞窟を歩く姿だ。
オークの面が、私の居所を捉え、拘束を確認した。
やはり私なのだろうか。
私の前にのっそりと近寄る。口臭い生意気を噴きながら、鎖を調べて戻っていった。
その背中、巨大な鋸が見えた。
私からしたら、身の丈に近い鋸だ。
重厚に見える金属の重さは、人が持てるような物ではないだろう。
腰にも何本か大小の鋸がつるされていた。
私は股間に熱く流れるものを感じながら、心臓の高鳴りから唾と胃液だけの吐物を吐いていた。
今日じゃない。
そして、今日はあのギリギリという音が地下室から聞こえる日なのだと。
どれだけ重さを提げて、体を藻掻けば、吊るされた鎖が、あの音をここまで伝えるのだろうか?
私は今日を免れた恐怖を、また続けなくてはならないのだ。
そう思ったら、喉から脳へと突き抜けるように振れ上がる、その感情を杭止められなくなっていた。
大声で笑い、頭を岩壁にたたきつけ、額を割り目が潰れていく。それでもかと顎を打ち付け舌をかみつぶした。
あのギリギリという音は聴きたくなかった。
やがてやってくる温かい血の雫が、額と頬をつたう頃、すべてが閉じていくのを理解した。
獣に落ちた国の生き残りは、もう人少ない。
どこで鳴る鐘でもよい、誰がための鐘であってもよい。
弔いの鐘よ、まだ聞こえぬ鐘よ。
どうか私を友と同族の園へ導き下さい。
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蒼堆 こなゆき
男「僕らのクラブのリーダーは♪ミ○キーマウス♪ミッ○ーマウス♪ミッキミッキー○ウス♪」
モノホン「·····」ギロッ
男「ヒッ!!!」
(伏字にしておいたから辛うじて助かった·····)
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くまくま17分
駆ける。駆ける。とにかく駆ける。
背後から追って来る『ソレ』に捕まってはいけない。逃げなくては。
後ろを振り返る余裕は無い、全速力で走った。
夜中に迷い込んだ廃墟と化したマンション。
『ソレ』は、何の前触れも無く現れた。
人の形を逸脱した異形。
伸ばされた腕を見た瞬間身の毛がよだち、叫ぶ事も忘れて全速力で逃げ出した。
そうして逃走劇が幕開けた。
恐怖に急き立てられ、ひたすら疾駆する。
止まってはいけない。止まれば身がすくんで動けなくなる。だから走った。
「はあ、はあ……っ」
肩で息をし、喘ぎながら肺腑に空気を送る。
脚が鉛のように重い。それでも止まる事なく、壁に手を付き夜中の静寂の中身体を引きずりながら歩き続ける。
そういえば、いつしか足音が消えていた。
縦横無尽に複雑なルートを通って来たのが奏功したか?
でももし、今追って来たらどうしよう?
怯えながら恐る恐る、後ろを振り返る。
「…………?」
居ない。
影も形も無く、周囲に気配すらない。
どうやら、逃げ切った。
安堵しながら前を向くと、闇の中から突如として腕が伸びて来て首を掴まれた。
「ーー、ーーーーっ」
息ができない。物凄い力で首を締め上げられ、気道が塞がれ血流も滞る。
『ソレ』は腕の生え過ぎた化け物。
下半身には脚の代わりに逞しい腕が二本。
顔からは目鼻は無く、無数の小さな腕が空を掻いている。
そして、首を締め上げている腕にも枝葉のように無数の小さな腕が生えていた。
首に掛かる手や指からも生え、少女の髪を引っ張る。
絞首の力がいよいよ強まり、意識が遠退く。
お願い、誰か助けて。
どうか神様。誰かーー。
たす、けーーー。
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