第71回「空という言葉を使わずに空模様を描写せよ」
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くまくま17分
晴れやかな朝。
一点の曇りも無い快晴。
駆け抜ける涼風は爽やかで心地好い。
ただ、降り注ぐ日差しだけは夏の面影を残す。
今日も暑くなりそうだ。
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小鳥遊賢斗
君が居ない世界に意味なんてあるんだろうか。
僕は顔をクシャクシャにして、病院からの帰路についていた。
ふと顔を上げると、雲の隙間から日が差し込んでいる。
陽の光がカーテンのように降り注ぎ、雲を虹色に染め上げるその光景に、僕はしばらくの間目を奪われた。
この現象には天使の梯子という名前が付いているらしい。
あの遥か先には君が待っているんだろうか?
「私の分まで、幸せに生きて」
ふと彼女の最期の言葉を思い出す。
……どうか見守っていてくれ。
恥のない立派な人生を、送ってみせるから。
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ゆりいか
同中で、同じ高校。なぜかずっと気になっていた、あいつの背中。
無駄に顔が良くて、女の子にモテるし、勉強も運動もあいつのほうが上。
なのに、私にずっと声をかけてくれて、帰り道を一緒に歩いたりなんかもする。
名字が同じだから、何度も隣の席にいて、どことなくずっと一緒な感じがした。
「ずっと好きでした!」
なんて、下手に丁寧な言葉を使う私は、なんか他人行儀でバカみたい。
5年間……いや、恋心が芽生えたのは3年前かな。ずっと言えなくて心に抱えた言葉。
言っちゃったら、関係が壊れちゃうってずっと悩んでたのに、告白したら心がすっきりしちゃった。
あいつはいつもどおり爽やかな笑顔で、元気よく声を張り上げて返した。
ああ、今日の天気は恋模様。
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髭虎
ポチャリとどこかで水が跳ねる音。ゆっくりと目を開くと視界には変わりなく、細波ひとつない穏やかな海が広がっている。
海面から十数メートル。マストの端に腰掛け、小さなため息。
ふわり吹き抜ける潮風に船はゆるゆると帆を揺らした。
嵐の前の静けさ。凪いだ水面は素知らぬ顔で。
これが海の怖さというやつだろうか。
抜けるような青とは対照に、心はどんよりと濁っていくようだった。
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NS
イワシ、イワシ、イワシ。
青めいた銀色に輝く弱い魚は、捕食されることが使命のようなものだ。彼らは海中で何を思うだろう?己の運命を呪うだろうか。誇りに思うだろうか。それとも、自らも持つ捕食者としての一面に胸を痛め星になりたいと願うのだろうか。
そのどれでもないと、分かり切っていた。彼らは生命として、本能のまま命を全うしている。私は人間だから、どこにでも意味を見出そうとしているのだ。あの純粋さに、ケチをつけようとしているのだ。
しかし、あぁ、いわし雲!今、彼らは海すらも飛び出した。優雅なものだ!我らヒトは見上げるばかりなのだ!手を伸ばしても届かない。風の中を泳ぎ、いつかヒトの見えない世界へと消えていく。
弱いのは、私だった。
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鬼原リン
蒼い果てしなく蒼い
春陽が僕らを照らしてくれる。
だけど何故、悲しくなると雨が降るのだろう。
曇って晴れてまた雨が降り
繰り返される。
人の気持ちと同様なのか…
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