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第60回「激辛料理の食事シーンを描写せよ」

______________________________


くまくま17分


 辛い。辛過ぎる。

 激辛カレーライスの早食いチャレンジ。

 見るだけで口内が辛くなる真っ赤なカレー。

 スプーン一つでひたすら掻き込む。

 背筋に冷や汗が浮かぶ程の暴力的な辛さ。

 痛覚を苛む辛味に喉は焼け付き、口内と舌の感覚は麻痺して久しい。


「あと一〇分です」


 告げられた残り時間。

 カレーの残量も佳境。今日こそは行ける。

 目にも痛々しい真紅のカレーを黙々と食べ進めて行く。


______________________________


宇佐美ゆーすけ


 たしかに、テストで赤点を取った僕が悪い。そこは認めよう。

 それを踏まえても、朝からこれはあんまりだ。


「母さん……これは?」

「愛情たっぷりハバネロラーメンよ。貴方赤色が好きみたいだから」


 雑誌と雑誌の間に忍び込ませて隠蔽したはずの答案用紙を左手でヒラヒラさせながら、母さんはスマイルを僕にみせた。

 どうやら、完璧に母さんを怒らせてしまったらしい。

 朝食にラーメンを選択した事で猛烈な怒りを僕に伝えてくる。


「母さん、朝からラーメンは」

「食べなさい」


 笑いながら冷徹な声を母さんは飛ばす。

 右手を背に隠しているのは、台所から包丁が1つ減っている事から察しがつく。

 逃げたら部屋中に“赤色”をばら撒くつもりだ。


「い、いただきます」

「召し上がれ」


 僕に拒否権は無かった。心臓を失うには早すぎる。

 蓮華と箸を握った手が食す前から汗まみれなのは、言うべき必要もないだろう。

 僕は覚悟を決めた。

 母さんは『ラーメン』と呼ぶハバネロスープをすくい、気持ち大目の麺と共に、口へ運ぶ。


「うっ……うまい」


 香辛料独特の臭い。呼吸法を間違えたら間違いなくむせるレベルだ。

 舌にのせた瞬間、ビリビリと僕へ敵視を向けた。

 だが、うまい。うまいのだ。

 ただハバネロを敷き詰めただけではないぞ。

 今度はスープのみを届ける。


「うまい……!」


 ただ辛いだけではない。

 茨の道、強烈な刺激の奥。

 そこで待ち構えていたのは、美味さという楽園――。

 受け入れてしまえば舌の刺激など、なんの問題もなかった。

 次は麺だ。

 箸ですくい、フーフーと熱を冷ます唇は腫れ上がる。

 だが、僕はここで止まるつもりはない。


「うまいっ!」


 程よい茹で加減の麺は、スープという栄養が染み込んでいた。

 楽園に雄々しくも生える木々たち――。

 赤く染まった木々たちは、スルリと胃袋へ進む。

 寝起きの胃袋へスープと共に刺激を与えたが、今の僕にはそれすらも快感であった。

 来るなら来い。我は楽園に向かう旅人なり。


______________________________

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