第59回「絶望という言葉を使わずに絶望を表現せよ」
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鬼原リン
【自己ノ望ミ薄】
「今日、会社をクビになった……。俺はいつもそうだ。
昨日パンを焼いてジャムを塗って食卓を運んでいた時、パンを落として、ジャムを塗っている面が床に落ちたし、青春時代なんて好きな人に振られるのは当たり前…… 」
「んで、今さっき嫁から一週間以内に仕事見つけないと別れると宣告され、うん、どうしようか、ホームレスにはなりたくはない。所持金は財布に二万、口座に一〇〇万は入ってたな」
俺は財布と睨めっこしていたら、いつのまにか、財布が消えていた。引ったくりだ。俺はハッとし、すぐさま追いかけた。
盗人は道路を渡り、俺も後を追うが、周りが見えていなかったため、車にひかれる。頭を強く打ち出血がひどい。
誰かが呼んだであろう救急車に運ばれ緊急搬送された。
俺はこのまま死ぬのだろうか。
あぁ、いままでの人生、望みが薄かったな。
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アリン・ヴェデルチ
授業始まったばかりだけどう○こ漏れそう
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風間
誰もいない山道で突然エンストした
レッカーを手配しようにもそもそも圏外でバッテリーも切れそう
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髭虎
目の前が真っ暗になる。
見ているものを正しく認識できない。なんで俺は、生きてるんだっけ?
息の詰まるような仄暗い感情が溢れて止まらない。息の仕方が分からない。体は底無しの泥沼に浸かったように重く、だというのに、ああだこうだと思考だけがずっと後悔を重ねて空回り。
あぁ、いつもこうだ。
ふらふらと座り込んで、怒りとも悲しみともつかない感情を地面に叩きつける。ドン、ドン、と。その拳の痛みは、これが現実だという証明だった。
あぁ。笑えない。笑えない。笑えない笑えない笑えない笑えない笑えない笑えない笑えない笑えない笑えない笑えない。
こんなはずじゃなかったんだ。いつからこうなった。何でだ何が悪かった? なにがなにがなにがなにが? ?
ふわふわと現実感が消え失せたまま、もしかしたら死ねば過去に戻れるかもなどと幼稚な希望が脳裏を掠める。
まぁ、それもいいかもしれない。
けれどそれも準備をするのが面倒で。
結局俺は考えるのをやめた。
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くまくま17分
目を覚ますと、純白の天井が俺の視界に飛び込んで来た。
ここは何処だ? どうしてここに居る?
記憶に靄が掛かって判然としない。
なら、考えても仕方ない。
高行動を起こすため、布団を剥ぎ取り腕を支点に上体を起こす。
(ん? 腕、だけでーー? )
自分の取った無意識の動作に、何故か疑念を抱いた。
ふと、自分の下半身に意識を向ける。
どうにも、太ももから下の感覚が無い。
気になって布団を剥ぐってみると、
「えーーー」
絶句。有る筈のものが無い。
太ももから先、膝や足先がどこにも見当たらなかった。凝視してもそれは変わらない。
それを認識した途端、下半身から喪失感が駆け巡る。
「あーーー」
やがて、霧が晴れる様に記憶が鮮明に甦って来た。
そう、あれは仕事の帰り。
うつらうつらと船を漕ぎながら車で雪道を走っていた。
やがてカーブに差し掛かり、曲がろうとして圧雪アイスバーンにタイヤを取られて対向車に激突。
朦朧とする意識の中で、足に鈍い痛みが脳髄に駆け上がるのを感じていた。
(嘘、だろーーー? )
あまりに現実感が無い。
無さ過ぎて、理解が追い付かない。
誰かが言った。
「神は、乗り越えられる試練しか与えない」
冗談じゃない。
これからの生活が全くイメージできない。
そんなものを一体、どうやって乗り越えろとーー?
気が付けば、涙が頬を伝っていた。
慟哭を叫ぶでもなく、悲嘆の涙に濡れた。
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