第51回「女性の仕草を描写し、美少女を表現せよ」
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ジョバンニ
彼女は決まって、それを言うときはうなじを触る。
細やかな黒髪を梳いて、無い答えをねだるように首を掻く。
僕は知っている。彼女がその仕草をするときはあることを言っている。
「余分に作りすぎちゃって……」
と、彼女は言う。切れ目のある視線も伏目がちになると弱々しさを醸し、庇護欲が沸く。
「だから食べてくれない? 一人だと食べられないから」
始めからお弁当は二つ分もあるのだから。
「ほんと、そんなつもりで作ったんじゃないんだからね!」
艶のある唇を立たせ、誰も言っていないのに反論する姿もいつものことだ。
こちらの答えを聞かずに彼女は余った弁当を押し付けて、足早に駆けていく。
僕は知っている。幼馴染だからこそその機微が何なのか。
彼女が決まってうなじを触るとき、それは『嘘』を言っているときなのだ。
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ふにげあ
街角に立つ彼女は、血のような紅で彩られた唇で、静かに煙草を咥えると、ジッポライターで火を灯す。
紫煙の味を知るには数年は速いはずの彼女は、あらゆる意味で大人の行いを知っていた。
煙草も、酒も、そして……それが、彼女の生きる術だった。その術を格子する天禀と、容姿に恵まれた少女だった。
私に気がついた彼女は挑むような目つきを向けてきた、私は財布から五枚を取り出す。彼女はニマリと笑みを浮かべた。商談は成立だ。
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くまくま17分
教室の窓際。本を手に取って活字の中に視線を落とし、読書に耽る少女は時折耳元の髪を掻き上げる。
たおやかな手つきで。絹糸の様な繊細で艶やかな黒髪を、白魚の如く細長い指で軽く梳きながら耳元まで持ち上げる。
たったそれだけの行為が何故、艶然と煌めき僕の胸を甘く締め付けるのか。
理由も解らず、ただ息をするのも忘れて見惚れた。
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aka
地域の夏祭り。橙のぼんやりとしたちょうちんの灯りが、鳥居の赤く濡れた漆と、人々の横顔を照らす。
駅も近く、さらに大型のショッピングモールもあることから、神社の中はまるで都会のスクランブル交差点のようにごった返していた。
そんな喧騒の中にいるのに、境内の入り口にいる彼女から目を離せない。
彼女も、まっすぐに僕を見つめ返してくる。
淡い色の着物に、ほんのちょっと赤みを足す程度の口紅。
「きれいだよ」
そう僕が口に出すと、彼女はふっと微笑を零し、人込みへと消えていった。
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