第50回「『古』という言葉を使わずに古い建物を描写せよ」
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風間
鳥居をくぐったその先には、いかにも、という風情の社があった。
地元でも有名な神社で、創立は確か平安の頃、だったか。
無論、何度か改修は行われたが最後に行われたのは戦後間もない頃らしい。
半世紀以上この地に鎮座している神様に敬意を表しつつ、私は賽銭箱に小銭を投げ入れた。
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髭虎
苔むした石階段を上り終えると、目の前にはやたら雰囲気のある日本家屋が見えてくる。
ところどころ穴の空いた屋根。壁には植物の蔓が伸びている。これで未だ建物の形は保っているのだから凄まじい。
そこに不気味さは感じなかった。けれど何かが蠢いている気配も、たしかにある。
経験則として、こういうところには何かが居憑くものだ。
懐の脇差をいつでも抜けるように意識しながら、ゆっくりと、扉があったであろう空間に足を進めていく。
「──あっ! ?」
ふと足下を何かが走り抜けていく感触があった。
ふさふさというか、ごわごわというか。振り向けばたぬきの親子がこちらを睨みつけていて。
獣の住処にビクついていた男がひとり。
まぁ、なんだ。
大事じゃなくてよかったと、徒労にも似たため息を吐くのだった。
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くまくま17分
悠久の彼方、神代の頃より建立せし大神殿。
かつては尊崇と信仰を集めていたそれもやがては時の忘却に遭い、長きに亘り風雨に晒された梁柱は修繕される事なく朽ち果て、崩れた屋根の穴からは日差しが降り注ぐ。
床壁は生い茂った緑の浸食に蝕まれ、ただ樹海に埋もれるばかり。
祀られた神は今日も、老木の如く新たなる生命の苗床へと変貌するこの打ち捨てられた神殿にひっそりと佇み、新たなる命の脈動に耳を傾ける。
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