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第48回「『恐』『怖』を使わずに恐怖を表現せよ」

______________________________


mgr_tokage


 いつものように仕方なく台所へ立つ私。


 エプロンの紐を結ぶ時、誰かの足音が聞こえた。



 いや。



 人間(誰か)ではない。



 私は足音を殺し、音のする方へ近づくが……。



「ぎゃーーーー! !」



 部屋の隅から長い触角が見えた瞬間。


 肝が冷えて思わず悲鳴を上げてしまった。



 “黒騎士”が姿を現すと、私を追いかけてくる。


「来るな! 来るな! !」


 なんとか棚にあるスプレーを取り出し、噴射口から白い霧を噴射する。



 戦いはどれくらい続いただろうか。



「うおおおおおお!!! !」

 気づけば私は自身のスリッパで、黒騎士の弱った身体をこれでもかと叩きつけた。



 彼の、息の根が止まる。



 しかし。

 私の背筋は凍ったままで、残骸を片付ける余裕は未だに持てずにいた。


______________________________


髭虎


 最近私の学校では『ちょんぎり様』という怪談が流行っている。

 何でも、嫌いな人に復讐をしてくれるのだとか。

 

 たまたま一人になった帰り道、そんな話を思い出した。


 もちろん信じてはいない。けれどこういう話は一人になると勝手に色々と想像しちゃうもので、いつも通る夕暮れの道が途端に心細く見えてくる。


 そういえば、あのとき仲直りしないままだったなぁ。まだ怒ってるかなぁ。

 

 神社前の静かな沿道を通りながら、むわり頬を撫でた生温い風に私は思わず冷や汗を流す。

 『ちょんぎり様』が来るときは、チョキン、チョキン、とハサミを鳴らすような音がするという。

 思い出すと今にもそんな音が聞こえてきそうな気がして、私の足も自然と早くなる。


 『ちょんきん、ちょきん』

 頭の内側でそんな音を想像してしまう。


 『ちょきん、ちょきん』

 早く、早く。ここを抜ければ人の多い通りに抜けるから。そこまで行けばきっと大丈夫だから。早く、早く。はやく逃げなきゃ。


 『ちょきん、ちょきん』

 この道ってこんなに長かったっけ? どうでもいいことまで気になり出す。


 『ちょきん、ちょきん』



 それから走って、走って。心臓をバクバク言わせながら、ひと気のない不気味な沿道を抜け終える。

 ゴォォ、ゴォォと車が何台も目の前を過ぎていく音に安心を覚えながら、目尻にたまった涙を拭った。

 過呼吸手前の息を整えて、あぁ、終わってみれば何を焦っていたんだろうという気になってくる。変なことまで考えすぎた。こんなのただの作り話だと分かっていたのに。


 ──チョキン


 ふと振り向くと、カバンにつけていたはずの御守りがなぜか沿道の真ん中に落ちていた。


______________________________


くまくま17分


 紅白旗を下げた三人の審判が取り囲むその中心。

 互いに防具を身に纏い竹刀を向け合う剣士二人。

 その一方、赤の襷を付けた剣士は深い戦慄が総身を掛け上り震えていた。

 相手は『幽幻』の異名を持つ剣士。どうしてそう渾名されるのか、剣を交えて漸く解った。

 いや、交わらないからこそ痛感した。

 剣先が触れ合わない。

 触刃の間合いで中心を取り合う中でもヒラリヒラリとかわされ、打突を放ってもその身を捉えられない。

 詰めれば退き、退けば出る。その繰り返し。

 まるで、実体の無い幽霊の様だ。実際、気迫や打ち気どころか気配まで希薄。

 初めて見るタイプの剣士。


「くっ………」


 いかん。このままでは相手の思う壷。

 攻めるしかない、勝つためには。

 剣士は中段に構えた竹刀を水平に、相手の鍔元へと向ける。拳攻め。

 そのまま鍔を押し込むように左拳を斜めに突き出すと、剣先が僅かに開いた。

 考えての事ではない。

 ただ、剣士としての本能で打突に跳んだ。


「面ーー」「胴っ!」


 一瞬にして背筋が凍り総毛立つ。

 気が付けは相手と交錯していた。胴に衝撃が走り、脳髄まで掛け上る。戦慄を覚えた。


「ーーーっ!」


 堪らず距離を取る。

 技の起こりどころか気配すら無かった。

 面を打った瞬間眼前から消失し、胴を打たれた瞬間突如現れた。そんな錯覚すら覚える。

 けれど、打突は無効。

 牽制のために左拳を突き出して打ったのが奏功したらしい。辛うじて一命は取り留めた。

 それから足を捌き合い徐々に間を詰めて行く。

 冷や汗が止まらない。足を止めたら、身体が竦んでしまいそうだ。

 中段から正眼へ。相手の喉へ竹刀を突き立てんと攻める上げると、剣先の鎬を擦り込んで応じて来た。それを押し退け、正中線を制した。


「突きっ!」


 諸手の表突き。鎬を擦り込み、刀身を回転させてこちらの竹刀を支店に斜め右の入斜角から穿たれた。

 突き有り。挙がる白旗三本。


 続く二本目。最早、悲鳴か気勢か解らない声。

 心の裡より生じたそれは毒のように身体を這い回り蝕んだ。

 だから必死に抗う。気迫で。心で。

 たとえ相手が化け物染みていようと勝負は投げ出さない。剣士としての矜持が辛うじて踏み留まらせる。

 触刃の間合い。ここへ来て、初めて相手が攻め上げる。晴眼。切っ先を眼前に向けたそれは、嫌でも先程の突きを想起させ、咄嗟に身体が反応していた。

 剣先を大きく開き、後ろに退く。そこへ、


「面っ!」


 片手面。構えを崩し、空いた面を強襲。再び挙がる白旗。

 剣士は膝から崩れ落ちた。

 全身から汗が噴き出しているのに、身体が凍り付く程寒い。喘ぐ呼吸は震えていた。


 勝てる気がしない。

 この先、どれ程鍛練を自分に課そうとも。どれだけ一心に修行に励んでも。

 この化け物には一生追い付けない。

 確信だけが胸の裡にあった。

 剣士としての矜持は脆くも崩れ去っていた。


______________________________


十六夜月


 アイエェェェェェェェ!? ニンジャ!?ニンジャナンデ!?


 赤い服に黒いメンポ あ か ら さ ま に ニ ン ジ ャ な の だ


 そのオーラはいかにも殺意を増してこっちに襲いかかろうとしている!


「やはりお主はソウカイ=ヤのニンジャ……」


 うん、勝ち目がない。私はここで俳句を読むことになりそうだ


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