第41回「『痛』という字を使わずに痛みを表現せよ」
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髭虎
不注意だった。
机の足に小指をぶつけてしまう。瞬間、メキッという感触が小指の骨を伝導した。
「あ──ぃ、ぎぃぃいいいいー!! ?」
たまらず足を抱えて倒れ込む。ゴロゴロ、ジタバタと床を転がりながら。よく見ると半ばまで剥がれた爪が上を向いて立っている。
あ、これアカンやつや。
反射的に患部を抑えようとして、震えた指がめくれた爪と強く擦れる。ゾリっと。
「あ────」
直後、目蓋の裏で光が弾けた。
脳が認識するまで数瞬、思わず息を飲む。
そして。
私はその日一番の絶叫をご近所中に響き渡らせたのだった。
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くまくま17分
武士は何故、腹を切らねばならないのか?
それは、譲れぬ一分があるから。
切腹とは、処刑に非ず。
汚名をそそぎ、有終の美を飾る為の名誉。
己の魂が清廉潔白であると証明する為に今、腹をかっ捌き開帳する。
「ーー、………っ」
刺し込んだ白刃、脈打つ血潮がみちみちと腸を引き裂く度、激しい衝撃が肚から全身に迸り、今すぐ地に転がってのたうち回りたくなる衝動に駆られる。
だが、唇を歯形が刻み血が滴る程にまで噛み締めて耐える。
さあ、笑え!
栄誉ある最期を苦悶にしかめる道理無し。
笑顔で飾ってこそ、本懐。
口角を限界まで吊り上げ、凄絶な笑みを浮かべ、
「いざっ!」
合図で振り下ろされる一刀。
(ああーーー)
首がはねられ空中に舞うともう、男は何も感じなくなっていた。
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