第4回「『空間的な広がりや奥行きのある山の景色』を描写してください」
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山の頂きに足を踏み入れた男は圧倒され絶句した。
寧ろ、一呼吸する度肺が軋む為に言葉を発するのも億劫だ。
眼下に広がるは雲海の平原。空の青と雲の白が地平の果てに溶け合う。
そこは生命の息吹どころか、涼風の嘶きすら消え失せた絶界。
いや、神域。
地上を彼方に隔てた静謐なる神々の庭。
見上げた先には紺碧の大伽藍。
昼間でありながら星が瞬く果てなき天蓋に眼を奪われていると、まるで星の海に揺蕩うかのような浮遊感に襲われる。
「……………」
男は暫し、時が経つのも忘れて神々にのみ愛でる事を許された絶景に身を浸した。
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ニトセネ
鷹の目には賑わう樹木が映り込む。ウサギの耳には多重奏の如く音が往来する。そして全ては土の中に染み入っていく。
得体の知れないものたちが1つの体系を成し、山という生き物としてそこにいる。土と、草木と、獣の匂いを漂わせ、悠然と策謀無き迷路を構えている様はこの世の真実を映した鏡さながらで、愛憎せずにおくには惜しく。あまりに惜しく。我武者羅に解き明かしたくなる。落ち葉は肥やし、虫はネットワーク、ごわごわの樹皮に身体を預ければ、耳に響くのは山の声。何を言いたい、何を伝えるか。罪深く土を踏みしめ、分け入っては同じ景色に困惑し、似ているだけだと気付き更に困惑するのだ。賢い獣には相手にされず、姿すらも見せはしない。頂きは遠い。頂きは見えない。思えば、頂きを見据えてもいない。色彩は豊かだった。見ないふりさえしなければ、こんなに豊かなことはない。知らないものは多かった、分け入るたびに未知との遭遇を果たす。果たしていたはずなのだ。
器の大きな山。性別も感情も持ち合わせないのに、こんなにも表情豊かだなど、シャレが利いている。見上げれば忙しく何かが飛び交い、柔らかな土に身を預ければ、きっと自分も山になれるはずなのだった。
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くまくま17分
大陸を南北に貫く大山脈。
空に掛かり青く煙る稜線は、世界を切り取り景色を遮る。
高く聳える天蓋は人々の往来を、生活圏を無慈悲に切り分ける。
切り立った岩肌は生命を拒絶し、
天を突く白銀の峰々は地上を睥睨し、頂きに迫らんとする者を傲岸不遜に威圧する。
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