第39回「この技を戦闘シーン(道場での稽古、戦場、何でもあり)として書け」(URLは前書きにて)
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J暇人
太刀捕り入り身投げ
https://youtu.be/g8fM2EjyEFo
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ふにげあ
自らに向けて刀を構える男を見て――ああ、またかとオロチは思う。
堂に入った構えに、迷いなき眼光。なんの心得も無い素人さんではない。
だが、その程度で自分を殺せると思っているのだろうか? 千欲会の極道を? 舐められたものである。
その原因である美しさはオロチ自身の誇りでもあるが、こうも間抜けに勘違いをさせてしまうのは困りものだ。
勘違い――そう、勘違いである。それを認識させられれば――――あるいは、無駄な血を流さずとも済むかも知れない。
「もし――」
オロチが手を上げて、軽やかに呼びかけたと同時、男は刀で切りかかってきた。
振り上げ、上段――鋭、と叫んで切り込んでくる。
見え見えの挙動、予測通りの動き――無手のオロチは振り下ろしの線から身を外す用にして、斜め左に飛び出す。
男は当然に切り返しを狙うだろうが、させるオロチではない。オロチは上げた手を素早く振り下ろし――男の手首を軽く手刀で撃って出鼻をくじくと、瞬時に柄の真ん中を握る。
ここで、即座に男が刀を捨てられたなら勝機は絶無ではなかったが、男は刀を力で振り上げようとする――動かない。オロチの剛力は、狒々のそれすら凌駕するのだ。
そうして、二の太刀を封じきったオロチは、刀を握った儘に入身を行い、空いた手で首筋を掴む。そして、柄を握った手と首筋を握った手で、男をゆすり――崩し――――放り投げた。
背を付く男――何が起きたのか理解しきれいない様子――――その股は開いている。
「おばかさん」
その開かれた股に、オロチは躊躇なく握った刀を突き刺した。男が、男である証を失った絶叫を上げた。
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くまくま17分
ほっそりと艶かしい三日月も闇の帳に霞み、草木も眠る朧月夜。
静寂な夜の闇を切り裂く一つの影。
むったりと肢体にまとわりつく生温い常闇を振り切って駆ける。
黒髪を結い上げ、口元から全身を黒衣に包む女暗殺者が寝静まった邸宅に音もなく忍び込み、標的の居る寝室へと突き進む。
息を殺しながら解錠の道具を使い、物音一つ立てず慎重に鍵を開けた。
ドアノブに手を掛け、喉を鳴らして生唾を飲みゆっくりと回し、そろりとドアを開けながら内部へと無音で足を踏み入れる。
途端、闇から膨れ上がる殺気。
「ィエアッ!」
気合い一閃。闇を切り裂いて振り下ろされた大剣が迫る。咄嗟に横っ飛びで床に身を投げて難を逃れ、身体を跳ね上げ体勢を整え獣の様に低く屈みながら標的の男と対峙した。
「まさか、こんな夜更けに夜這いとは。穏やかじゃないな」
もしや、バレていた?
一瞬疑念が過ったが、男の言動からすぐに思い直す。
寝間着姿で夜襲に備えるなど、聞いた事が無い、と。
来い。その挑発に乗る形で地を這う様に身を低くし、腰元の短刀を抜き放ちながら駆ける。
一合、二合、三合。
白刃を閃かせ、火花を散らして迫る。だが、男の顔は涼しげだ。
「温いわっ!」
瞬間、脇構えから放たれる大剣のかち上げに短刀を打ち払われ闇に舞った。鋭い痛みが左手首に走る。
しまった。思わず顔をしかめる。
そして気合いと共に大剣が唸りを上げて襲い来る。
屈めた背中に刀身が迫るその刹那、右手を振り上げながら左前方に体を捌き、剣先が地面を穿つと同時に手刀で相手の右手首を打ち据える。
そこから手首を返して余した柄頭を掴み、体を切り返し相手右側面に入り身。
痛む左手首に喝を入れ、襟首を掴み相手を崩す。
上体を跳ね上げながら右手を振り上げ、膝の抜きと股関節の切り返しで腰をぶち当て男を後方に突き飛ばして大剣を奪う。
即座に空中へ身を躍らせ翻り、床に身体を投げ出す男の心臓に大剣を突き立てた。
「――、………ッ」
男は言葉にならない声を発しながら、自分が湛えた血溜まりに沈む。
事切れたのを確認しながら耳をそばだて足音を探る。
やがて寝室に近付く気配が無いと確信すると、女暗殺者は自身の短刀を拾い上げ、窓から跳んで闇夜に消えた。
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