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第38回「『孤』『独』を使わずに孤独を表現せよ」

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沙流っぽい何か


「ただいま」と告げても、返ってくるのは静寂のみ。冷えた1LDKの自室は自分の心を否応無しに虚無へと誘う。

 私は今、とても人のぬくもりを欲していた。


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ふにげあ


 刀身を濡らす血を拭い、鞘に収める。戦いは終わった。


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くまくま17分


 萌蕾が芽吹き始める新緑の季節。

 淡い蒼穹を陽光が照らす朝方。

 森林に囲まれた白亜の官邸、その一室。

 壁際に列する豪奢な調度品が部屋を飾り立て、中央には深紅の幕が彩る天涯付きの瀟洒なベッドが鎮座する。

 艶やかな絹の布団の下から上体を出して枕に身を預ける女性に、ベッドの脇に置いた椅子に座る男が今日もにこやかに話し掛ける。


「やあ、おはよう。お目覚めはいかがかな?」


 気取った調子で語り掛ける男は女性に慈愛に溢れた視線を送る。

 そして、そっと指先で頬から顎にかけてを優しく撫でる。

 それから、いつもの様に自身の近況を話し始める。

 身振り手振りを加えて時に大仰に、時におどけて。そして気障ったらしく。物言わぬ女性の分まで懸命に言葉を尽くす。


「それで、今日の具合はどうだろう。外に出掛けられそうかな?」


 優しい眼差しを向けながら尋ねた。朽木のように皺枯れた女性の遺骸に対して。

 しかし、彼女は男の中で今も生き続けていた。

 艶やかな銀髪を風に靡かせ、白魚の指でそれを撫でながら白雪のような肌の頬を朱に染め、優しく微笑み掛けるその姿が。

 男の胸中で燦然と輝きを放っていた。

 それから、話は途切れる事なく日暮れまで続く。

 いつもの様に。


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くまくま17分


 雪雲が空を覆い尽くし、降りしきる雪が視界を霞ませる白い闇の中、急峻な断崖絶壁に手を掛け足場を作り、一本のロープに命を預けて男は雪山の登頂を目指す。

 肌を刺す冷気が吐息を白く凍らせ、時折いななきながら駆け降りる吹き下ろしの風に身を縮こませながら、少しずつ登る。

 雪雲を貫き聳える山頂は未だ遥か遠く、独力では少なくとも五日は要する。

 共に行く相棒は既になく、頼れるのは自分だけ。

 喪った相棒の、その生きた証を残すため。

 相棒の死を無謀な挑戦と嘲笑った連中を見返すために、男は絶対に諦めない。


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髭虎


 明日世界が終わるとして。

 世界最後の日には手紙を書こうと思うんだ。


 もう送る相手なんていないけど、自分にできる最大限の愛をそこに綴ってさ。


 あてもなく宇宙を漂う探査機のように、海底を泳ぐ古代魚のように。


 人知れずひっそりと、いつかそれが次の世界に届いたら素敵だなって思うんだ。


 だから──遠く、遠く。遥か未来の誰かへ。地球人総勢一名。この言葉が届くことを願って。


 私は今日、手紙を書きます


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