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第30回「『老』を使わずに老人を表現せよ」
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髭虎
暖炉の前。
安楽椅子に腰掛け、男は最後の薪を火に焚べる。
クリスマスの夜だ。きっと、今日は家族や恋人と過ごす者もいるのだろう。
窓から見える景色を眺めて、何を思い出したのか男は顔に小さく皺を増やした。
「あぁ、まったく……」
ハリを失ったしゃがれた声で、男は呟く。
「少し、長く、生きすぎた……な…………」
聖なる夜。静かな夜。
主を失った古びた館に、パチリと薪の弾ける音が響いた。
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くまくま17分
朽木の様に皺枯れた剣士が見せたのは、凄絶な剣舞だった。
その技量は溌剌とした若武者や脂の乗った豪傑よりも円熟し、体捌きは嫣やかなれども精緻を極め、太刀筋は衰えるどころか精妙で風を斬る程に冴え渡り、閃く白刃は光輝き、見る者を圧倒した。
剣を振る偉容は矍鑠、というより壮健で凄烈だった。
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