第3回「夜という文字を使わずに『夜が来た』を文学的に表現せよ」
______________________________
くまくま17分
空を、雲を、そして地上の営みを。
茜色に染め上げた太陽が西の果てに消えた。
代わりに東の空に浮かんだ月が、星の輝きを空にちりばめながら世界を群青に染めていく。
______________________________
orion1196
原初の火が彼方へと去る。ここに来たるは不死の闇、命ある者と亡き者が裏返る時がやって来る。
彼方の大王が身を捧げし光は今や過去の物となった。さぁ、今こそ新たなる光を、火を探す時だ。
______________________________
小鳥遊賢斗
自ら光をもたらすものは姿を消し、その輝きを映すものこそが暗闇を照らす道標となる。
暗闇の中進む者に寄り添うそれは、優しげな光をもたらすだろう。
やがて人々は活動を止め、暫しの休息が生み出される。
ああ、安らぎの時だ。
______________________________
十六夜月
皆がこの時間に怯え震えだす。
日輪の加護と光が消え、月と星が出る。
そして皆はこの時を早く過ぎないかと怯えて待つ
さぁ、今宵もこの時間がやってきた。
______________________________
髭虎
深い森。懐中電灯を揺らし歩く。
目の前にはただ闇だけが広がっていた。
「何年ぶり、かなぁ……」
呟いて、目を閉じる。
すると当たり前のことだが、視界は頼りない明かりすら映さなくなる。
あぁ、でも。
瞼の裏に、あの日見た星が見えるようだと。
小さく笑って、崖の外へと身を投げた。
______________________________
orion1196
神々の火が逝く。それは静かな終焉の刻、暗月の君が彼方より死を伴って顕れる。彼の女神が司る闇はただ暖かく、しかして冷たい。これは神々の時代の更に昔、天と地が別たれる前から存在するただ唯一の終着なのだ。
______________________________
ゆりいか
日本晴れの健やかな公園のベンチで、ただつらつらと小説を読んでいた。スズメのちんちんと囀る声が長閑な昼間を演出する。
あまりにも夢中になって読んでいると時間を忘れ、徐々に青空が朱ばみ、群青色の闇を帯びていく。
このままでは文字が読めなくなってしまう。
「ああ、あと少しなのに」
近くにある電灯の灯りを待ち、蛍雪の功をと思ったが、官能小説を読む私が高尚な人間では無いのは明らかなので、大人しく帰途についた。
______________________________
下駄
自分の故郷ならば、とうに闇が全てを覆っている頃合だろう。
不夜城とも呼ばれるこの街にはネオンの電飾が煌めき、未だ絶えず人が行き交う。
されど見上げた空に、故郷のような星の輝きはない。
取り残されたように、月だけが闇の中でぽつりと浮かんでいる。
初めてこの地へ足を踏み入れた時は、まるで星々がこの地に降り注いだようだと思ったものだ。
どの地にいようと空だけはどこも変わらないと語っていたのは、さて誰だったか。
______________________________
サイドワイズ
長年連れ添った女房が今日、死んだ。
学生の時に出会った私たちは熱烈な恋に身を焦がし、周り反対を押しきって結婚した。
初めのうちはお互いの気持ちが反発する事もあったが、二人で春を愛で、夏を謳歌し、秋を味わい、冬を耐え忍ぶ度に私たちの愛はより深くなっていった。
女房は「こんなに長い間一緒にいてくれてありがとうね」と言って、笑顔で息を引き取った。
その日から私の世界は色を失った。
あの日の女房の最後の笑顔だけが今でも私の頭に鮮明に焼き付いている。
______________________________
ニトセネ
エース、キング、ジョーカー。どれも彼には不釣り合い。テンホウというあだ名は天衣無縫を略してのことだ。お天道様も逃げ出したっていうのに、奴に挑む愚か者など餅つき兎の好い見世物に違いない。
「ベッドしよう愚者の生!シャッフルするのはディールされた未来!チップは足りているか?ラックは十分か!? 今日のジャックポットはあんたか俺か!」
愚者の煽りが没落の合図、嗤い声こそ闇の華。ルーレットは既に廻っている。
______________________________