第29回「『死』『逝』『殺』を使わずに死を表現せよ」
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あけ
それは、生命の呼吸が止まった瞬間。
生物は活動出来なくなりすべてが無になる。
最愛の人とも恩師とも家族とも会うことすら許されなくなる。
さぁ、あなたの人生はどうでしたか?
今までの人生楽しめましたか?
苦しい時も悲しい時も嬉しい時も楽しい時も色々あったのでしょう。
ですが、もう終わりました。
これから貴方は天国や地獄といった曖昧な場所で暮らせる訳ではありません。
ここから先は無です。何もありません。
嫌だと言われても貴方に拒否権なんてありません。
それでは、新たな旅を楽しんでください。
喜びを表す表情と悲しみの表す表情半分ずつの仮面をつけた人物はぺこりとお辞儀をしてその魂を見送った。
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ふにげあ
鞘から抜き放たれた白銀の刃――相手は、抜いた瞬間すら捉えられなかったに違いない。
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蛙
マジシャンは最後のショーを終えた。ブラボー、拍手、歓声。客席からは彼の名前がコールされる。マジシャンは丁寧なお辞儀をして、ステージを去った。
彼の得意技は「脱出マジック」で、今日の公演でも大トリにやってみせた。
今までこのマジックの種を明かそうと同業のマジシャンや科学者が頭を悩ませたが、いよいよ解明される事はなかった。
彼は弟子を最期まで取らなかった。マジシャンと共に技術は失われ、謎と魔法だけが残された。
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orion1196
それは人間性を持つがゆえの終焉、命あるものだけが迎えられる終わりの刻。その魂はソウルに還るためにあるのだが、道標の火は既にない。
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くまくま17分
戦、敗れて山河あり。
兵どもが夢の後。
戦場に咲き誇った将兵もその末期を華々しく飾り、今は無様に骸を野原に晒している。
鎧兜は剥ぎ取られ、誇りを賭けた剣もどこへやら。
嘶く風が足蹴にして過ぎ去り、
禽獣や羽虫が貪り、
太陽はその惨めな姿を白日の元に照らし、
月は朧雲の影で嗤い、
誰も彼が骸たちの名誉を汚す。
ただ、天よりの慈雨だけが彼等を悼み、慰めた。
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