第22回「『幸せ』という言葉を使わずに幸福を表現せよ」
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髭虎
あぁ、この時間がいつまでも続けばいいのに。
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くまくま17分
ガラス張りの扉を開けると、夜灯を反射する雪化粧した河川敷が目に飛び込んで来る。
「わあ………」
滔々と穏やかに流れる河の音が雪に溶ける静寂の雪景色を横目に、艶やかな黒髪の乙女はひたひたと濡れた足場に注意を払いながら露天風呂に歩み寄る。
吐く息が白く凍る氷点下。
肌を刺す冷気を感じ身震いしそうな寒さの中で乙女が身に付けるのは白い布一枚。
タオルを押し当てた胸の膨らみは今にも零れそうで、眩しい肢体をその下に隠す。
露になった白雪の肌は染み一つなく、まるで磨かれた珠のようで、ほんのりと朱が差すことでひどく艶かしく映る。
額に滲んだ汗は整った鼻梁と顎をなぞり、喉元に浮かんだ汗は首筋と鎖骨から胸の谷間にかけてを舐める。
岩の湯船に白魚のような指を掛け、ゆっくりと爪先を温泉に差し入れる。
濛々と立ち込める湯気が鼻腔をくすぐる。仄かに硫黄の混じった薬湯は香り高く、効能への期待を煽った。
やが両足で立ち、ほっそりした美脚で湯殿を踏み締めた。
皮膚がキュッと締まり、ジンジンと疼痒がその上を駆け巡る。
それが収まり湯の熱さに慣れてくると腰を下ろし、胸元まで温泉に浸す。熱さに馴染んだ身体を程よい湯温の薬湯が全身を優しく包み込む。
湯の熱がじんわりと身体を芯まで温め、やがて心も解きほぐす。
「ああ、極楽極楽♪」
心地良い温泉で火照った頬を上気させ口端を吊り上げながら、思わずそんな言葉を漏らす。
トロみのある薬湯を優しく擦り込み肌に馴染ませ、その効能にあやかる。
氷点下の中で程よい熱さの露天風呂を堪能する。
そんな贅沢な一時に至福を感じながら顔にうっとりと恍惚を浮かべ、乙女は暫の間湯編みに興じる。
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