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第2回 「『美味しい』『美味い』を使わずに食事シーンを描け」

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十六夜月

 

「おまたせしました、こちら当店のおすすめロースカツとなります」


 なんか食事が運ばれてきたぞ?おや?こいつはとんかつじゃないか。とんかつは俺の好物なんださていただきます。


 ……サクサクに揚げられたカツと豚肉の味が本当にいいコンビネーションを生み出している。俺は思わずご飯をかきこんだ。


 うん!このカツはご飯をかきこんで食ってもいいように仕上がっているのか更にこのカツとご飯を食うことで更に割り箸が止まらないように作られている!しまった店の思惑通りだ!


 ダメだ、ここで俺は食ってしまったらまた太る!味噌汁で味変しなければ……。


 味噌スープが濃いからこのロースカツの味変にはもってこいだった。けどこれどうするか……おかわりしちゃう?


 そうして俺はまた懐が寒くなるのを覚悟してまたおかわりの考えをしているのだった。


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小鳥遊賢斗


「これは……!」

 私はそれを噛み締める度に涙が出てきた。

 これまで味わったことのない味。

 僕以外の人類は、この味を知らずに生きていき、そして死んでいくのだろう。

 一体どうやったらこんな味をするものが作れるのだろう?

 普通に作ってこれまでの味に仕上がることは恐らくないだろう。

 涙が止まらない。

 私はそれを一気にかきこみ、完食した。

「どうだった?」

「こんな手料理を食べるのは初めてだよ」

 嫁の手前残すわけにもいかず、出来るだけ舌を使わずに呑み込んだ。

 一緒になる前は何もかも完璧に見えた嫁だったが、離婚を視野に入れ始めたきっかけだった。


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ニトセネ


 舌という奴はワガママ極まりない。好みの物が来たからって、喉に送らなきゃ話が進まないというのに。

 そしていざそれが喉の奥に消えると、「次を寄こせ!」と。全く節操もない喧しい。やむを得ず開いた扉から、銀の椀に載った食べ物がひっきりなしに運ばれてくる。舌の奴は大喜びだ。

 銀の椀が途絶え、最後に透き通った水が流れ去った頃、ようやくアイツも満足したようだった。こんなワガママに付き合うのも、中々悪くない。


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くまくま17分


 味噌汁を一口、音を立てて啜る。

 サラリと口当たりの優しい味噌は甘味を含んだまろやかな塩味は魚介出汁のコクと渾然一体となり、更なる高みへと登り詰める。

 口いっぱいに広がる味わいを堪能すると飲み干して喉を潤す。

 滋味溢れる優しい味はじんわりと身体にゆっくり染み渡り、起き抜けの身体を芯から解きほぐす。


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アタホタヌキ


 父はいつも母の料理に文句を言う。

 具の大きさがバラバラとか、煮込みすぎ、苦い、しょっぱいいつもこんな感じだった。

 私はそんなこと一度も思ったこともなかった。私の舌がおかしいのだろうかと思ったほどだ。

 母もただただ笑っている。一体何なのだろうといつも疑問に思っていた。


 そんな折に私は父の町工場の草野球に呼ばれた。私は試しにこの話を、仲のいいおじさんに話してみた。


 すると、おじさんはただ静かに父を指差す。そこには今まで見たことないほどの笑顔で母の作った卵焼きを頬張る父がいた。


 また父が母の料理に文句を言う。わずかに口元が緩んだその顔で……。


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風間


 テーブル席に座る数人の若者に背を向け、俺はカウンター席で独り、焼き鳥を頬張る。

 鳥本来の脂の甘味がふりかけられた塩によって引き立てられている。

 これなら酒のつまみ、特に日本酒のお供としては十分だ。

 こういうシンプルなのがいい。

 ただ贅沢を言うなら、もうちょっと胡椒とか山椒のピリッとした風味が加わると、より風味が増すような気がしている。

 まぁそこはそれだ。

 今は出されたものに黙々と向き合い、ただただ料理の味に集中する、至福の時間を楽しむとしよう。


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くまくま17分


 手のひらサイズの可愛いらしい大福。

 大口を開け一口でパクリ。

 噛むごとにほんのり塩味の利いた餅の中から溢れる、決め細やかな餡子。サラリと口当たりの良いそれは舌の上でホロホロと淡雪の様に儚く溶けた。

 そして広がる、砂糖仕立ての洗練された上品な甘味。

 餅の塩気と口の中で混ざり合い、まさしく良い塩梅。

 その優しい味わいに舌鼓を打つ。


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