第149回「『チョコ』という言葉を使わずにバレンタインデーの様子を描写せよ」
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髭虎
2月14日。
待ちに待ったこの日。
始業ギリギリの登校を果たした俺は、朝のホームルームをぼんやりと聞き流しながら机の中を探っていた
すると、あるではないか。いつもと違う感触が。
背筋を走る変な緊張感に鳥肌を立てながら、恐る恐る握りしめたブツを確認する。
黒く、艶やかな、そして6本の足をカサカサと動かし、俺の手から脱出しようともがく物体。
ヤツがいた。
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八百津湊
「くっ! まさか、本当に用意したと言うのか!?」
額から一筋の汗が流れた。
人生で初めて付き合った彼女と、自然発生的に始まったバレンタインデーと、ホワイトデー。
お互いが前回のプレゼントを倍にして返す。それだけのシンプルなルール。
始めた時は、よかった。
だが、俺たちはこのルールを舐めすぎていた。
目の前に立つ彼女の口がニヤリと歪む。
「間に合ったわ、ふふふ、ロレックスの腕時計。ちょうど200万。あははぁ! お返しが楽しみね……!」
時計を僕の手に握らせ、高笑いしながら去っていく背中を呆然と見つめる。
もう付き合い始めて、7年目。
500円のお菓子から始まったプレゼントの応酬で金額は雪だるま式に増え、ついに今年のバレンタインで200万円に到達した。
あろうことか、なんと彼女はこの巨大な壁をーー乗り越えてきたのである。
俺は気づけば叫んでいた。
「間に合うか!? 次は俺の番、200万の倍……400万だぞ!?」
俺たちに二人で過ごす時間などない。
稼がねば、バレンタインのお返しすら許されないのだ。
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せん
頬を赤らめながら背伸びをしてピンクにラッピングされたハートのパッケージを先輩の下駄箱に忍ばせる少女。
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